残雪の赤岳西壁主稜(北峰リッジ)
(八ヶ岳赤岳西壁 2011.4.17)
その1
  
 赤岳西壁主稜再挑戦2013年2月
 ちょっとバリエーション 雪山ハイク 
 山の手帳
 

赤岳:左からショルダー・北峰・南峰
赤岳西壁(2007年2月赤岳鉱泉より)
【はじめに】
 赤岳の頂上というと、登頂目的なら通常、三角点のある南峰になるのでしょうが、赤岳鉱泉・行者小屋から見上げると南峰は右奥にあって見た目は地味。他方王冠マークのような赤岳の3ピークのうち真ん中のピラミダルな北峰(頂上小屋のあるところ)は位置や姿形の点で主峰然としていて、その西面からダイレクトに突き上げる北峰リッジも赤岳西壁主稜と呼ばれています。
 赤岳西壁主稜は入門〜初級とはいえ(ルートグレード2級下・ピッチ最高グレードW-),赤岳西壁のみならず八ヶ岳を代表する冬季バリエーションルートとのこと。2000年正月に権現岳〜赤岳縦走の際このルートを登ってきたクライマーの姿が瞼に焼き付いてしまって、ちょっと憧れていたルートのひとつでした。月日は流れても実力がついたわけではなく(昨年の石尊稜(横岳西壁1級上・W-)もすんなり行かなかった)、私たちには未だに敷居の高い存在であることには変わりありません。
 正月に負った指の凍傷が思いのほか長引いたこともあり、また、初心者同士での挑戦なので仮に行くにしても、気象条件面で有利な(強風・低温の心配のない)春期〜残雪期が妥当と日和見を決め込んでいました。そこに今回の震災です。自粛ムードの中4月になると予想通り天気も今ひとつとなり今季は半ば諦めていました。ところが、今週末は日曜だけは天気が良さそう、時期的にラストチャンスと思われ、日帰りは厳しい気もしましたが、最悪来季の偵察のつもりで行ってみることにしました。
【山行記録】
4/17(日)晴れ
0.アプローチ(行者小屋まで)
 今週末は土曜が雨(山は雪)日曜が晴れの予報。日曜は混雑が予想されるものの、大半は土曜アプローチで日曜は早めにアタックして下山のはず、日曜の日帰りなら登攀開始が遅くなる関係で順番待ちはないと思っていた。そもそも、人気ルートとはいえ初心者の私たちがはじめて行くのだから、順番待ちよりむしろ後ろから煽られる可能性の方が高く、今回はこれを回避する意味合いもあった。
土曜20時過ぎに自宅を出発、首都高調布ICから高速に入り中央道小淵沢ICを22時半に出て道の駅「こぶちざわ」で車中仮眠。
 翌日4時起床美濃戸口へ、準備を整え5時過ぎに歩き始める。美濃戸口からだと一時間余分にかかるが、林道の状況を赤岳山荘に問い合わせたところ「轍が深いところがあり通常の乗用車は確実に(腹を)こする状況なのでやめた方がよい」とのこと。昨春は何とか美濃戸まで車でアクセスできたが、夏再訪したときには帰路でオイルパンを損傷したため(交換8.5万円)、今回は忠告に従うことにした。
実際に歩いてみると、深い轍の間に露岩のある箇所があり余程気をつけないとSUV等以外の車では厳しいだろう。残雪はほとんどないが美濃戸
手前から凍結路面が現れる。赤岳山荘でトイレ休憩、建物脇に人が近づいても動じないカモシカがいてこちらがびっくり。
美濃戸からは概ね雪道、アイゼンの磨耗を恐れてはじめはつけなかったが凍結箇所もありその都度回避したため効率が悪く、結局30分くらい登ってから履いた(この間にクライマー2人と赤岳登頂の単独ハイカーにパスされた)。
 
 行者小屋へ至る柳川南沢登山道は一昨年の春(阿弥陀岳北稜)以来で、このときよりアプローチの残雪は多い印象。途中「道迷い注意」の表示が数箇所見られた。後日知ったのだが南沢は「道が不明瞭で迷いやすい」というのが最近の一般的な認識らしい。この道は何度か右岸左岸と渡り返す箇所があったり沢の高巻きによる急登があるものの、ルートファインディングが難しいという記憶はなかったので少々驚いた。柳川北沢(赤岳鉱泉へ至る)と比較してののことだとは思うが、最近の北沢の方が整備過剰であって(林道に近い)、南沢は普通の登山道らしくてよいと感じるのは私だけだろうか。 
 前方が開けて大同心・小同心から横岳主峰(横岳西壁)が覗く。大分雪は後退して西面の岩壁は黒々としていた。
 
 8時半を過ぎて漸く行者小屋に到着(阿弥陀北稜のときより20分くらい時間がかかっていた)。10張ほどテントがあり。ベンチの周りには日帰りのハイカー数人が休んでいた。早々にパスして行ったクライマー2人組も準備しており、中山尾根へ行くとのこと。
出発時食べそびれたおにぎり・行動食で朝食、妻は体調不良で食欲がないそうでドリンクゼリーを少し口に含んだだけ。昨夜は睡眠は取れたし、スローペースだったので大丈夫と思っていたのだが・・・・。
1.主稜取付まで
 予報どおりよい天気、少し霞んではいるものの目標の赤岳西壁北峰リッジ(主稜)もよく見える。もちろん沢筋はまだ多いが、ショルダーや北峰・南峰のリッジルートには雪が少なくほっとする。
 少しでも背中の荷物を軽くしようとヘルメット・ハーネス等の一部の装備は身につけて出発(9時過ぎ)。後ろにはまっさらのピッケル・アイゼン着用の単独ハイカーが付いて来ていた。
 行者小屋からは、テン場の間を抜け中岳沢を少し歩く。ほとんど雪に埋もれた道標(赤岳・阿弥陀岳分岐)から左の文三郎道のトレイルに入る。沢筋から離れるとすぐに急な雪の尾根道、しばらく登ると鎖も現れる。無雪期は鉄の階段があったと思ったが、すっかり雪の下で歩きやすい。後続の単独ハイカーほどではないが、妻はかなり辛そうでペースダウン(ちょっと心配)。この頃から下山者と頻繁にすれ違う、中には主稜を終えてきたと思しき登攀スタイルのパーティーもいた。
赤岳西壁主稜ルートイメージ→拡大画像
傾斜が緩み段状の展望地に出る(行者小屋から1時間強・右手に中岳・阿弥陀岳がよく見える)。文三郎尾根の中間部で登山道が右に屈曲し尾根から離れる辺り。眼下の赤岳沢右ルンゼに向かって明瞭なトレイルが延びており下降地点のようだ。踏跡を目で追うと右ルンゼを渡った先にはガイドブックの写真でおなじみのチムニー、その上のリッジ上には3人パーティーが取り付いているのが確認できた(取付から2ピッチ目)。取り合えず取付きは分かったし、この様子なら先行者とも適度なインターバルで、ルートファインディングで苦労することもなさそう。
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 妻が休憩している間、準備に取り掛かる。主稜の取付までは右ルンゼへの下降と横断はかなりの急な雪面となっており(参考文献では60mのトラバース)、ここからロープをつける。

 南峰リッジ末端の下を通って右ルンゼ左岸側の岩でピッチを切る(35m・ペツルのボルトあり)。今回一番気がかりだった箇所だが苦手なトラバースは軟雪で問題なく、心配で持ってきたスノーバーの出番はなし。残り15m程の急なルンゼは妻に先行してもらって渡り、取付へ。
1P目取付2P目取付 2.主稜下部
 取付は2個のチョックストーン(CS)が挟まったチムニーで、この登りは参考文献3ではW-となっている。ところが、下のCSまで雪があったためホールドの多い段差を一段登るだけ(岩は2m弱)。ダブルロープのつもりで9mm*50mを2本持参していたが、核心は思ったより容易そう、とりあえず最初のピッチは今出している1本のみで登ることにした。チムニーの登りは予想通りガバホールドで全く問題なし、むしろCSの上に立ってランニングビレーを取る時の方が体勢が悪くなりちょっと怖かった。
チムニーの先リッジに出るまでは、短いが、岩・雪・氷のミックスした急なルンゼでバイルを打ち込みながら登った(ピオレトラクション)。さらに、リッジを右に廻り込み正面の岩でピッチを切る(35m・ペツルのボルトあり)。この主稜最初のピッチは逆S字のラインでロープの流れが悪くなりやすいため、中間支点(岩角にスリングをかけた)の取り方に配慮が必要であるが、ロープ1本でも長めのスリングを使用することで支障はなかった。
主稜1ピッチ目
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主稜2ピッチ目  2ピッチ目は妻がリード、取付は急であるが左が弱点となっておりホールド・スタンスは豊富、残置ピンもある(クラックが多いのでフレンズも有効#3)。一段上がってからは、だらだらした岩稜歩きとなる。日当たりがよく雪はルート上にほどんどなく全く容易。途中にもピトンやペツルのボルトなどあるが、50mいっぱいまで登ってもらった。

 このピッチで思わぬトラブル発生。「解除」のコールがいっこうにかからない思っていたら、「ルベルソを落とした」とのこと。仕方なくこのピッチは腰がらみでビレーしてもらい、方々探しながら登ったが見つからなかった(赤岳沢右ルンゼへ落ちてしまったらしい)。ルベルソでリードビレーとフォローの確保で兼用するようになってから、ハーネスから支点に確保器を移す際、必ず落下防止のバックアップを取るようにしていたのだが、少し慣れてきてこれを怠ったのが原因。
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この後も緩い岩稜歩きなのでコンテに切り替えることにした(妻が先行)。中間の岩場を過ぎるとルートミスをして岩場を懸垂している先行パーティー(2人+3人の5人パーティー)が見えた。
主稜下部を登り詰めると正面に主稜上部にピラミダルな岩壁が立ちはだかる。通常は直下の浅い凹角を右上し、主稜上部はそのツメ(小テラス)から概ねルンゼを登るのが一般的。先行パーティーは正面岩壁に取り付き行き詰ってしまったらしい。
ここでスピードアップすればまだ間に合ったかもしれないが、こちらも初めてのルートだし、先行した妻はルベルソを無くして意気消沈気味、追い越す気はさらさらないらしい。結局、5人パーティーの前の二人組みが先に凹角に取り付いてしまい、妻は手前でピッチを切った(通常の5ピッチ目取付辺り)。私も凹角手前の草付まで登り、順番待ちの休憩(30分くらい)。これ以降北峰頂上まで前の2人組、後の3人組、私たちの順番で登ることになった。
中間の岩場付近(通常の4ピッチ目)
正面左に主稜上部のピラミダルな壁が立ちはだかるがこれは登らない

【参考文献】
1.日本のクラシックルート(山と渓谷社・1997年)
2.アルパインクライミング(遠藤晴行編・山と渓谷社・2001年)
3.チャレンジアルパインクライミング八ヶ岳・南アルプス・谷川岳編(廣川健太郎著・東京新聞出  版局2005年)
4.日本登山大系8八ヶ岳・奥秩父・中央アルプス(編集柏瀬祐之・岩崎元郎・小泉弘・白水社)

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山の手帳

赤岳沢右ルンゼトラバース1P目終了点付近 北峰リッジ1P目取付のCSと上のルンゼ 北峰リッジの中間の岩場 北峰リッジ2P目取付 inserted by FC2 system