新雪の光岳〜上河内岳縦走
(1998.11.22〜24)

聖 岳(11/24)

11/22〜24に南アルプス光岳と上河内岳に登ってきました。
易老渡から入山し光岳〜上河内岳〜聖平〜易老渡と周遊するコースです。

【概 要】
・光岳は、山頂で見た聖方面の朝焼けが素晴らしく、印象深い百名山の一つとなりました。
上河内岳への縦走では、茶臼岳直下で身体が飛ばされる程の突風に遭い冬山の厳しさを思い知らされました(23日)。
・翌24日は無風快晴の登山日和となり上河内岳から見る雪化粧した聖・赤石・悪沢の堂々とした姿は圧巻でした。
また、南岳からの下山中に白装束のライチョウが現れ、雪に覆われたハイマツの上で遊ぶ姿は疲れを忘れさせてくれました。
・今回は、新雪期にしては行程が長くプレッシャーが大きかったのですが、茶臼小屋〜聖平間は岐阜の山岳会の皆さん(5人パーティー)に先導していただいたおかげで安心して歩くことが出来助かりました。

日程、コース及び時間、並びに天候(積雪)等は以下のとおりです。
【山域・山名】南アルプス/光岳(てかりだけ2591m、百名山)
                茶臼岳(ちゃうすだけ2604m三百名山)
                上河内岳(かみこうちだけ2803m二百名山)
【日程】前夜発2泊3日
11/21;自宅(横浜)=調布IC=中央道駒ヶ岳SA(車中泊)
11/22;駒ヶ岳SA=松川IC=易老渡-光小屋(泊)
11/23;光岳往復後、光小屋-茶臼岳-茶臼小屋(泊)
11/24;茶臼小屋-上河内岳-聖平-易老渡=松川IC=八王子IC=自宅

【メンバー】夫婦2名
【コース、時間及び積雪等】
[11/22(日);晴れのち雪]
易老渡8:45-面平10:13-易老岳12:57-三吉平14:07-光小屋15:42

(積雪)易老岳;20cmくらい(登山口より雪あり)三吉平付近;20〜30cm
三吉平〜光小屋;30〜50cm
(気温)面平(1500m)2.4度/易老岳(2354m)マイナス3.4度

[11/23(月);晴れのち小雪、強風]
光小屋5:40-光岳(5:55〜6:44写真)-光小屋6:55〜7:30-三吉平8:10-易老岳9:10-希望峰11:03-茶臼岳12:35-方向指示板12:59-茶臼小屋13:13

(積雪)樹林の中は30〜50cm/茶臼小屋周辺;60cm
(気温)光岳(2591m)マイナス9度(6:00)

[11/24(火);晴れ]
茶臼小屋6:05-方向指示板6:19-茶臼・上河内鞍部7:03-上河内岳分岐8:00-上河内岳(8:13〜53写真)-上河内岳分岐8:59-南岳9:35-聖平(11:00〜25昼食)-薊畑11:50-西沢渡14:09-便ガ島15:10-易老渡15:38

(積雪)上河内岳〜南岳間;50〜100cm/1860m地点より下は雪がまばら
(気温)上河内岳(2803m)マイナス6度/聖平;3.6度

【山行記録】

[11/22(日);易老渡〜光小屋]晴れのち雪
◇易老渡までのアクセス
前夜、仮眠した駒ヶ岳SAを出発したのは明るくなった6:20、少し肌寒いが天気は良さそうである。松川ICで中央道をおり、少し東進、交差するR153に入り南下、「上村」の標識で左折し東進すると矢筈トンネルに出た。これをくぐり、その先の上島トンネルの手前を右折(表示あり)すれば赤石林道に出るのであるが、赤石林道の一部が夜間全面通行止め(18:00〜6:00)とのこと。南信濃村役場でその迂回路の情報しか得ていなかったので、迂回路を通ることにした。
迂回路は、矢筈トンネルを抜け10分位走ると右手に上村中学校(大きい三角屋根の体育館が目印)があるので、そこを左折し(「下栗の里」の表示あり)、これを10分程登る。傾斜がゆるんだところで二又になり、右の細い方の道(「北又渡」の表示あり)を下ると赤石林道に出る。これを左折して下り、北又渡の発電所を左手に見送ると程なく易老渡に到着した(8:15)。

◇易老渡〜易老岳
直前に、役場から入手した積雪情報では上河内岳にうっすらと白いものが見える程度との事だったが、行く途中に見えた兎岳は真っ白、ピッケル、アイゼン(12本)を携行品に加える。朝、遅く登山口に着いたのが幸いしたようだ。
易老渡には10台程の車が止まっており、中央アルプス越百小屋と書かれた白いジープの隣に車を止める。

8:45に易老渡を出発、吊り橋を渡り5分も登るとうっすらと雪が見え始めたのでストックを使って登る。面平を過ぎてもたいして雪は増えず歩行上、支障になることはない。むしろ蛭に怯えながら登ることを思えば夏よりずっと気が楽である。
1900m付近から雪は20cm位となり、水が得られるせいか小平地には2張りのテントがあった。ごく短い岩場を通過し勾配が緩むと易老岳はすぐ,山頂は樹林の中にある小平地で、表示が無ければピ−クとはわからないような所だった。ここで光岳と茶臼岳が分岐する。
頂上には中年の単独登山者が休んでおり、体調不良のため引き返すので水をもらってくれないかと2Lのペットボトルを差し出される。この雪では水の心配はなさそうではあったが、どうも辛そうなのでお礼を言っていただくことにした。

◇易老岳〜光小屋
樹林の中ばかりを歩いていたので気がつかなかったが、易老岳を下る頃から空が暗くなり雪が降り始めた。
易老岳〜三吉平間でトレースが数本分岐し、ルートをはずしてしまう。地形から東に寄りすぎていることに気づき事なきを得たが、三吉平には易老岳手前で抜いた4人パーティーの方が先に着いていた。歩いている時は感じないが立ち止まるとマイナス4度はやはり寒い、ここで雨具の上着とオーバーグローブを着用する。

三吉平を過ぎ涸れた沢を登る頃には空はますます暗くなり憂鬱になる。雪は50cm位になり新雪で不安定なのでピッケルも出してダブルストックのようにして歩く。沢を登りつめイザルヶ岳分岐を過ぎると光小屋はすぐであった。
なお、途中の水場は凍結しており、水は雪利用となる。あまりきれいでないのでガーゼで濾過して使った。

新築の光小屋は2階建てで80人位?は泊まれそうである。連休中とあってオフシーズンながら20人ほどの宿泊者がいた。今日のうちに光岳を往復するつもりだったが、一旦腰を落ち着けてしまうと、雪の降る中を歩く気がせず登頂は明日に延期した。
小屋の広さの割に人が少ないので寒い、エアーマットを持ってこなかったことを後悔する。仕方がないので湯たんぽを作り、ザックをマット代わりに敷いて寝た。
[11/23(月);光岳往復後、光小屋〜茶臼岳〜茶臼小屋]晴れのち小雪
◇光岳
4:30に起床、朝食後、光岳を往復する。
光岳山頂は樹林に囲まれ展望がきかないとのことで期待していなかったのだが、予想に反して、仙丈岳、大沢岳、中盛丸山、兎岳、荒川前岳、赤石岳、聖岳、上河内岳など白い峰々が並んで見えた。


富士山の右側から朝日が昇り、バラ色に染まった聖方面の山々は目を見張るほど美しかった。やはり雪山ならではの風景だと思う。

手前の木々も雪をまとうと朝日に染まり丁度良い前景となる。夢中でシャッターを切ったが、ブレが心配、一脚しかもって来なかったのが悔やまれた。1時間近くいたのですっかり身体が冷えてしまった(マイナス9度)。

左:光岳山頂より聖岳方面
◇光小屋〜希望峰
のんびりしすぎて、今日も出発が遅れてしまう(7:30)。雪が少なければ聖平まで行くつもりだが、かなり厳しそうである。一応、茶臼岳12:30を目処に可能なら聖平小屋、過ぎた場合には茶臼小屋泊まりということにした。

易老岳までは何の問題もなかった。今日は天気が良いので同じルートを通っても全く気分が違う。三吉平〜易老岳間も今度は迷わず通過できた。夏道には赤テープや赤布が随所にあり、なぜルートをはずしたのか不思議なくらいだった。
易老岳に9:10に到着、小屋で一緒だった4人パーティーに追いつく、今日は下山とのこと。聖平まで行くと告げると、やはり聖平を目指した5人パーティーが6時頃小屋を出たということを教えてくれた。紅茶をごちそうになって9:20に出発。

希望峰までは樹林に覆われているがはっきりした尾根通しに歩くので迷いやすい所はなかった。雪も30〜40cm位、ピッケルとストックを使って順調に進んだ。
途中木々の間聖岳から見え隠れしていたが、希望峰に着いた時にはすっぽりと雪雲に覆われてしまった。
希望峰を下ると樹林帯を抜けハイマツが茂る鞍部に出る,ここは風の通り道となっておりこの日初めて耐風姿勢をとった。昨日の午後ほどではないがガスっていて視界が悪い。

◇ライチョウは突風の前兆?(茶臼岳)
ルートは尾根を東へ下って背の低い樹林の中に入り、平坦な道をしばらく歩くと窪地に出た。この辺りに仁田池があるはずだが、雪でどれが池なのかわからなかった。
小さな沢のような所(後で二重山稜の窪地と知った)を登り始めた時、右手のハイマツ帯を白いライチョウが歩いていた。二人とも冬装束のライチョウを見るのは初めてなので大感激、ライチョウは一定距離を保ったまま同じ方向へ歩いていたが、そのうち見えなくなった。

沢状の道をさらに登るとハイマツも無くなりガレ場の登りとなった。ここは、上から吹き下ろす風が強烈でピッケルだけでは立っていられない。アイゼンを履いて立ち上がろうとした時に突風が吹き、二人ともなぎ倒され3m程転がってしまった。幸い怪我はなかったが、稜線の上でなくて本当に良かったと思う。100kg近い(私75kg+荷物18kg)物体をこうも簡単に転がしていしまうのだから風の力はすごい。冬山の恐ろしさを垣間見た気がした。
この様子では聖平まで行くのはとうてい無理なので、今日は茶臼小屋を目指すことにする。
やはりアイゼンの効果は絶大、なかなか前進はできないものの耐風姿勢をとっている限り持ちこたえられるようになった。一進一退の状態がしばらく続いたが、すこし風が弱まり何とか茶臼岳に到達した。
茶臼岳の山頂は、雪混じりの風が強く吹いており周囲の岩にはエビの尻尾がびっしり付いていた。視界の悪い稜線を慎重に進み、方向指示板から右側の沢を下ると茶臼小屋が見えた。

先行したパーティーはどうしたであろうか、そのまま進んでいれば上河内岳あたりにいるはずである。二人で大丈夫かなと心配しながら小屋の入り口を探していると中から話し声が聞こえる。2階の引き戸を開けるとやはり例の5人パ
ーティー(男3人、女2人)であった。岐阜の山岳会のパーティーで、リーダーは山歴40年の当年64歳の会長さん、越百小屋のIさん他みなさんベテランの方々であった。 
茶臼小屋も新しいきれいな小屋で、定員は70人とのことだが冬季解放は2階のみ(40人弱)。
水は雪利用(積雪;吹き溜まりで60cm)だが、光小屋よりずっときれいだった。

[11/24(火);茶臼小屋〜上河内岳〜聖平〜易老渡]終日快晴
4:30に起床、茶臼小屋には、い草マットが敷いてあったため光小屋より暖かくよく眠れた。風もあまりなく、星がきれいであった。
今日は天候が良ければ聖平経由で下山、悪ければ往路を戻って易老岳経由で下山の予定だが、この分なら前者のルートで行けそうである。
 
◇上河内岳を目指す
朝食をとって6:05に岐阜のパーティーのみなさんと一緒に聖平に向け出発。今日は森林限界を超える稜線歩きも結構あるので最初からアイゼンを履いた。
膝位まで雪が積もった沢をひと登りすると稜線に出た。穏やかな天気で風はほとんどない、昨日の突風が嘘のようであった。

もっとも、昨日も一昨日も朝は天気がよかったのだから油断はできない。会長さんが「今日は1日持ちそうだね」と言っているのが聞こえた。

富士山の南方の空が明るくなっているが、なかなか日の出にならないので先に進むことにする。ルートは稜線を西側に巻くが、少し下って低木の樹林の中を歩いている時にようやく日が昇り正面の聖岳が赤く染まった。登山道はやや左に曲がりこれを少し下るとぱっと視界が開け、雪がほとんどない、でこぼこした凍土の平原に出る。これが天然記念物の亀甲状土原であった。
亀甲状土原を縦断し、茶臼岳と上河内岳の鞍部で休憩する。
岩と雪のミックスした斜面をアイゼンを効かせて登ると40分ほどで上河内岳の肩(上河内岳分岐)に出た。ここで一息いれ、サブザックだけで他の人より一足早く上河内岳に登る。

頂上もあまり風は強くなく気温(マイナス6度、積雪20cm)の割に暖かい。

さすがに展望が良い,すぐ北には聖岳が大きく,右となりに赤石岳(左画像)、悪沢岳と雪の3000m峰が並ぶ。
大井川を隔てて西にはこちらは黒々とした双耳峰の笊ヶ岳、シルエットの秀麗な富士は墨絵のように見えた。

画像:茶臼岳(左)・光岳(右奥)

毎度のことながら写真を撮り出すと長くなり、いつの間にか頂上には一人になっていた(妻も分岐まで下りしまった)。
岐阜のパーティーは、上河内岳を下りる頃には一つ先の小ピークに取り付いていた。
◇岐阜のパーティーに感謝(上河内岳の肩〜南岳)
急いで肩まで戻ると荷物をまとめ南岳を目指して出発。肩を少し下りると、トレースは雪にすっかり埋もれたハイマツの間についており、時折アイゼンが引っかかり歩きにくい。雪も今までよりずっと深くなり、股下位まであるところもあった。
小ピークを越え南岳近く迄行くと、雪はさらに多くなる,西側は切れ落ちておりトレースは傾斜の緩い東側の斜面をトラバースするように付けられていた。トレースが無く、我々二人だけだったらここの通過は大変だっただろう。ラッセル泥棒みたいで気が引けたが、本当に助かった。
南岳の頂上に着いたとき、一足先に到着していた岐阜のみなさんにそのことを話すと、「こっちは5人だし、冬山のエキスパート(Iさん)がいるから、気にしないで」と言われた。ほんとうに頭がさがった。

◇ライチョウ再び
南岳頂上のハイマツ帯を抜け、雪の付いたガレ場の右縁をしばらく下っていると、「ライチョウだ」と小声ながら興奮気味の声がする。右手のハイマツの斜面を見ると、雪に埋もれたハイマツの上を真っ白のと少しだけ夏毛の残る2羽のライチョウが歩いていた。つがいのようだが、春のように顕著な違い(雄は目の上に赤い鶏冠のようなものが出てくる)がないので定かでない。
先刻休んだとき、ライチョウを見た後突風にあったと話したので、「また天気が悪くなるかな?」とメンバーで一番若手の人が言ったが、今日はそんな心配はなさそうであった。しばし、写真撮影。
左手に見える大きい岩を過ぎるとミックス斜面は終わり、樹林の中を歩くようになった。途中でアイゼンをはずし、一気に聖平まで下った。
岐阜のパーティーのみなさんはここで昼食をつくるようなので、行動食でお昼を済ませた我々は、お礼を言って一足先に下山することにした。
◇聖平〜易老渡
聖岳から南へ伸びる尾根の末端を少し登り、聖岳との分岐を左へ進むとすぐ薊畑とになった。ここから急な尾根の下りとなる。聖平迄と比べると雪はずいぶん少なくなるがそれでも上の方は30cm位はあった。
倒木の多いジグザグの道をさらに下る。1860mの標識の辺りから雪がまばらになり、落ち葉の上を歩くようになる。気温もぐんと上がり(12度、1200m、13:51)、暑くなってくる。疲れが出てきてこの急な下りは膝に堪える。

沢の音が聞こえ、営林署の廃屋の脇を過ぎると西沢渡に出た。
西沢には荷物用のケーブルがかかっているが、橋がない???。飛び石伝いに渡ろうとするが適当な所が見つからない。スパッツも付けていることだし面倒なので浅いところを見つけて渡渉する。なんとか靴の中をぬらさずにすんだが、ここはケーブルを使って渡るのだろうか?
沢を渡ってしばらく歩いていると今度は登山道の真ん中に人にしては大きすぎる糞が鎮座している。何の糞かわからないが、先月、大朝日に登ったとき熊に遭遇しているので緊張した。この辺りは盛りは過ぎているものの楓の紅葉がきれいだった。

西沢渡〜便ガ島間はガイドブック等にあまり記述が無いが、遠山川右岸のかなり高いところを通っており、急な斜面をトラバースする箇所(ロープがあるが幅20cm位で落ち葉がのっていて緊張する。)があったりして、決して油断できない気がした。
便ガ島に着いて安心したのか、3日間の疲れがどっと襲ってくる。易老渡までの30分程の林道歩きは、結構辛かった。

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山の手帳へ

                

 

 

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