新雪の石尊稜
(八ヶ岳横岳西壁 2010.11.14〜15)
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 ちょっとバリエーション  雪山ハイク
山の手帳
 

 【はじめに】  
石尊峰直下の草付バンドを登る  新雪の石尊稜へ行ってきました(11/14入山・アタック、11/15下山)。
 石尊稜は、南北に細長い横岳西壁の南部に位置する顕著な岩稜、横岳西壁では最も易しい冬季バリエーションルートのひとつです。下部岩壁取付から石尊峰まで高々500m(標高差300m)のショートルートですが、4月には時間切れで敗退しており、今回は時期を変えての再挑戦でした。
新雪期行くことにしたのは、日が短いという難点はあるものの、ルートの7割を占める雪稜がない分容易で時間短縮できると考えたからです。また、予備日を含め2日で計画するには美濃戸まで積雪がなく入山日アタックが可能なこの時期を外すと、鈍足初心者の私たちの場合、また残雪期になりそうと思われたからです

【山行記録】
11/14(日)曇りのち夕方近くから晴れ

. アプローチ(赤岳鉱泉まで)
11/13(土)夜、自宅(横浜)出発、空いているかと思いきやAPECの交通規制の影響か高速(首都高調布IC〜中央道小淵沢IC)に入るまで混んでおり時間がかかった。
日付が変わってから中央道を下り、そのまま美濃戸へ向かう。美濃戸口を過ぎても積雪はなく一安心、最近林道の修復が行われたとのことだが、極力注意して微速走行するも、車高の低い普通乗用車のため、やはり何度か腹をこすった(7月小同心クラックへ行ったときはオイルパンの交換となる損傷)。インターから1時間弱で赤岳山荘の駐車場(美濃戸)へ到着、車中仮眠。

5時過ぎに起床、朝食は途中でとることにして準備にかかる。車外に出ても冬のような寒さでないのは助かる。準備をしている間に2〜3パーティーが出発した。ヘッデンをつけて柳川北沢登山道に向かう。前半は整備された林道歩き、凍結も無く暗くても不安なく歩けた。堰堤広場で朝食を摂っていると日帰り装備の3人パーティーが追い越していった。ザックにはヘルメットがついており横岳のどこかのルートを登るのだろうか。
休憩を終えた頃にはすっかり明るくなったが予報どおりどんよりした天気、今回のもう一つの目的である年賀状の写真は期待薄。

北沢を右岸左岸と渡り返し大同心・小同心(横岳西壁北部)が見えるようになって漸く雪が現れる。日差しがないせいか寒々として物悲しい風景。気温が上がらないのかその後はずっと雪道、おぼつかない足取りのハイカーを一組パスすると赤岳鉱泉はすぐだった。

 
 1.赤岳鉱泉〜下部岩壁取付
 小屋に着いても積雪は数cm、来月にはオープンするというアイスキャンディーの方は大分準備が進み、僅かだが着氷していた。中途半端な時期のせいかテントは少なく5〜6張、今日幕営するとしても(早ければ撤収して日帰りのつもりだった)私たちだけかもしれない。いつもの場所に設営しサブザックに登攀用具を詰めて出発、天気に加えトレーニング不足が気がかりで、いまひとつ気分が乗らなかった。
柳川北沢右俣  小屋の前の登山道を行者小屋方面へ向かう。雪混じりの道を少し登ると石尊稜入り口の橋はすぐだった(小屋から10分ほど)。赤い鉄枠の橋を渡り左手の北沢右俣に入る。大した雪ではないがトレイルは全くなし、今シーズンの石尊稜は私たちが最初かもしれない。
ガレた沢歩きが大変なことは先月の八右衛門沢(霞沢岳)で経験済み、ただ、今回は雪も被っていて余計厄介。特に右岸側の顕著な沢(小同心ルンゼ)を左に分けてからは段差のあるゴーロ歩きとなり歩きにくかった(3m程の小滝状もある)。春は緩い雪渓が続いていて楽だったのだが・・・。
 落葉した木々の間から頭上に石尊稜を見ながらの登りが30分ほど続き、先刻と同じような沢(三叉峰ルンゼ)との出合となる。出合の少し手前は石尊稜下部を観察するにはよいポイント、下部岩壁〜リッジ〜中間部の小ピークのほか、その右奥には石尊峰もよく見えた。相変わらずどんよりした空模様だが、休憩がてらザックをおろして写真を撮る。左手の方からコールが聞こえてくる、朝の3人が小同心クラックでも登っているのだろうか。
  三叉峰ルンゼとの出合(間の尾根が石尊稜)を過ぎると少し勾配が急になり(春は30度くらいの雪渓だった)、100mほどで尾根の右に現れる小さな雪のルンゼを登る。4月はルンゼの出口から石尊稜末端のリッジに取り付いたが、これが思いのほか登りにくかったため、今回は正面の下部岩壁直下の浅い凹角を登ってみた。前回雪渓だった凹角は岩雪のミックス、次第に勾配が増し50度くらい(?)のスラブになった(途中でアイゼンを装着)。岩は脆い上支点も取れそうになく中間部で断念、ロープを出して左へトラバースしてリッジに取り付き(スタカット20m)、その後はコンテで登った。

(左)石尊稜脇の小ルンゼ   (右)下部岩壁直下の浅い凹角。が下部岩壁
 このようにアプローチでまた余計なアルバイトをしたため、下部岩壁取付までに要した時間は4月と大差なかった。少々不安になるも、夜明け前のスタートやテン場での時間短縮等が奏効し、前回より2時間早い。中間ピークまでは経験済みだし、この寡雪なら下部で時間を縮めるのは然程困難ではないだろう。
石尊稜下部のルートイメージ
@下部岩壁取付    A大ピナクル    B中間部の小ピーク
*青は春登った右ルート
 2.下部岩壁〜草付リッジ(下部)〜中間部の小ピーク
 下部岩壁は緩傾斜の易しいスラブには違いないが、ホールドは少ないし練習不足ということもあって、前回の印象よりずっと立っているように感じた。もっとも、これは写真のイメージが残ってしまったためかもしれない(傾斜している場所から広角系のレンズで撮ると緩く写るためで、実際には急なところは60度近い)。
取付は逆L字状に曲がった木の上で、ペツルのボルトで支点が作ってある。真っ直ぐ草付を登って左端の潅木のあるリッジまで斜上するのが最短ラインに見えるものの、このラインは経験がなく最初の中間支点の位置も不明なこともあり何となく登る気がしなかった。
下部岩壁
(左)末端のリッジから下部岩壁へ向かう。が取付(@)   (右)出だしは少し急
 そこで、春登った少し右の一段高いもう一つの取付(ハンガーボルトの支点あり)から登ることにした。こちらは出だしは少し急な岩場だが最初の中間支点まで然程遠くなかったと記憶していたからだ。ところが、いざ取り付いてみると全くコンクリートされていない岩場はホールド・スタンスが不安定、最初のランニングビレーまで前回より長く感じた。その後は草付きにバイルも決まり落ち着いて登ることができたが、はじめの2・3手は広沢寺(の一番易しいルート)よりむしろ難しく感じた。
 下部岩壁はその上部にちょっとした垂壁があり、通常はこれを巻くため左右にルートが分かれる。そのせいか両ルートに対応して1ピッチ目の終了点も2箇所作ってあった(左ルート用のものはロープ長25m辺りにあるペツルのボルト、そのすぐ右上のリングボルト・ピトンが右ルート用か?)。
 今回は春の右ルート(ルートイメージの青のライン)より容易な左ルートから登ることにする。左ルートは岩壁左端の潅木のあるリッジまでピッチを切らずに登れそうだったからだ。実際に50mいっぱいで下部岩壁の上のコブ直下まで到達することができた。

(左)岩壁上部から左端のリッジへ (中)潅木のある急なリッジを登る  (右)岩壁の上のコブ
 コブの先、傾斜は緩むものの短いナイフリッジもあり全般的に痩せていたような印象、一応スタカットで登ったが(妻がリード)、雪が少なく全く容易だった(ナイフリッジは気がつかないうちに過ぎてしまった)。さらに中間の小ピーク(春の引き返し地点)まで急な草付を(冬は雪稜となるところ)バイル1本を使いコンテで登る。途中の大ピナクルは左から巻き、ビバーク地点もあっという間に過ぎてしまった。

(左)大ピナクル(A)を巻く (中)小ピークまでは急登 (右)中間部の小ピーク(B、先の鞍部から)
 春の小ピークは左から巻く。前方にはハイマツのピークがもうひとつあり潅木のリッジが続いていた(冬は雪稜が200mほど続くところらしい)。さらにその先には石尊峰に向かって急な岩稜が突き上げており、これがいわゆる「上部岩壁」のようだ。
 小ピークの脇からハイマツのある鞍部まで下りる。ここはも雪のナイフリッジとなっていたところだが同じ場所とは思えなかった(さして細くない)。小ピークの通過は前回より3時間半早く、この分なら稜線までは問題なく抜けられそう。
中間部の小ピーク

(左) 上部岩壁取付へ向かう途中から               (右)上部岩壁の登りから
その2へつづく
 
横岳西壁石尊稜の記録  
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