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【はじめに】
岳人1月号が出たときから今季の雪のバリエーションの目標は石尊稜と決めていました。元々人気ルートであることに加え記事が載ったときは新しい情報を入手し易いと考えたからです。同じ初心者ルートでも赤岳西壁主稜よりピッチ最高グレードがやや下(注)という点もその理由のひとつでした(クライミングが下手な私たち向き?)。
ただ「冬期登攀」初心者同士でも楽しめると言っても「」のハードルは高く、天気予報とにらめっこしながら日和見を決め込んでいるうち、とうとう桜も散る季節となってしまいました。
今季ラストチャンスと思って計画したものの2日目(11日)の予報は今ひとつ、初日にアプローチ・アタックというのは少々荷が重いかなと当初より思ってはいたのですが・・・・・。
(注)後日、赤岳西壁主稜に行ってみて信頼できる支点は主稜の方が多く、時期にもよりますが、初心者にとっては、石尊稜の方がむしろ難しい気がしました。 |
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【山行記録】
4/10(土)晴れのち午後から曇り
1.赤岳鉱泉まで
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自宅を前夜出発,小淵沢ICから直ぐの道の駅「こぶちざわ」で仮眠する(似たような車が10台以上駐車していた)。幕営装備なので早めに出たかったが寝坊してしまい山に行くと思しき車は既に出発していた。すっきりしない空模様でこの季節にしては暖かい朝。 |
八ヶ岳高原ラインから鉢巻道路に入り美濃戸口へ。道路周辺には全く雪はなく路面凍結を心配せずに普通に走れた。美濃戸口の駐車場には1台の車も見当たらず皆美濃戸まで乗り入れている様子。
この先も残雪はなく,最低地上高の低い普通乗用車でダート路面を走るのは少々心配ではあったが,思い切って進んでみることにした(美濃戸口より先を車で走ったのは初めて)。途中何度かお腹をする場面もあったものの道路幅を目いっぱい使って所々ある露岩を右に左に回避しながら20分ほどで駐車場のある赤岳山荘に到着(美濃戸・駐車料1000円/1日)。既に10台ほど駐車していた。
準備を整えて6:30に美濃戸を出発。車のおかげで寝坊の遅れを完全に取り返せた。おまけに1時間分体力を温存できたのは今日の行程を考えると大きい。 |
久しぶりに柳川北沢を歩く。南沢(行者小屋へのルート)と比べよく整備されているが下の方は林道歩きが長く、いささか単調。許可車両が通ることもあり日陰では路面が凍結してスケートリンク状になっている箇所が見られた(登りならアイゼンを履くほどではないが下りは注意が必要)。 |
堰堤広場で小休止、パンおにぎりで朝食をとる。この間日帰りと思しき軽装の2人がパスして行った。
何度か右岸左岸と渡り歩き、少な目ながらずっと雪道を歩くようになる。新緑にはまだ早いが暖かい日差しが降り注ぎ全く春の陽気だ。 |
薄い樹林の間から横岳西壁が見え隠れしているが逆光でうまく撮れなかった。ここから僅かな登りでアイスキャンディーの立つ(今シーズンはもうお終いのよう)赤岳鉱泉、先の2人が小屋に入って行くところだった。
受付を済ませ、かろうじて雪が残っている広場にテントを設営する(私たちが着くまで1張りもなかった)。
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(左)凍った林道歩き (中)赤岳鉱泉の冬のシンボル「アイスキャンディー」 (右)赤岳鉱泉 |
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2.赤岳鉱泉〜下部岩壁取付
荷物の整理と登攀準備をする。予定より早く着いたのに油断してのんびりしているうちに出発が10時近くになってしまった。
まずは、石尊稜へのアプローチ、今週末はまだ入山者がなくちょっと心配だったが好天だったこともあり石尊稜の特定自体は比較的容易だった。
行者小屋へ向かう登山道をしばらく歩き樹林に覆われた丘陵をひとつ越えたところが柳川北沢右俣(小さな赤い鉄橋が雪の中から覗いていた)。登山道は橋を渡って中山峠へと続くが石尊稜へはこの雪の北沢右俣を登る。この辺りは石尊稜・中山尾根をはじめ横岳西壁の小同心以南の概念を把握するにはとてもよい場所。 |
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(左)(中)北沢右俣の赤い橋、これを渡って左へ入る。トレイルは行者小屋方面 (右)横岳西壁小同心(雲付近の2つの岩峰)以南:↓が石尊峰 |
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しばらく歩くと先週以前のものと思われる踏跡が現れるも最初に左に分岐する小同心ルンゼの方へ消えてしまった。右の本谷を僅かに登ると再び二俣となり左右いずれも今までより少し急な雪渓となる(左は三叉峰ルンゼで新雪期ならこちらから取付くとアイスクライミングも楽しめるらしい)。 |
間の石尊稜は藪尾根でこれに末端から取り付くのは得策ではないため、右の本谷をさらに100mほど進み、左(石尊稜側)から出合う40度近い小雪渓を30mほど登って取付いた。立ち木のある岩稜まで僅かだが時期が遅く(凍っていなかった)岩が脆くなっていて緊張した。
なお、この週末は気温が高かったため氷雪が融けて以降の岩場はいずれも非常に脆い状態だった。
立ち木でセルフビレーを取って一息入れる。この先は急な草付き〜右に屈曲した痩せた岩稜を辿って核心の下部岩壁下へ到る。 |
岩が安定していれば問題にならない箇所だが、登るほど潅木が少なくなり岩場に信頼できるホールドが乏しそうなので早めにロープを出すことにした(2ピッチ(45m+25m))。
なお、後で気がついたのだが、当初登っていた急な雪渓をそのまま詰めると下部岩壁の直下に出ることが判明。ただ、上部は雪壁といってもいいくらいの斜度なので私たちの場合はダブルアックスで登る・ビレーする等の対策が必要かもしれない。
下部岩壁の取付は外傾した岩場となっており、セルフビレーはその手前の太い白樺の木でとった。岩稜通しに登ってここに達するには脆い岩場のトラバースがあってちょっといやな感じだった。 |
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小同心ルンゼを左に分け右の本谷へ |
石尊稜末端 この二股も右へ |
小雪渓出合 |
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(左)下部岩壁取付(↓のところ)まで赤のラインを登ったが、雪渓をそのまま登った方がよさそう(青ライン) (右)脆い岩場のトラバース |
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3.下部岩壁登攀
ルート全体の核心(V+)といわれている下部岩壁は「凸凹した草付きのある脆い泥岩壁」という印象,傾斜が緩いので然程難しそうには見えなかった。
この箇所についてガイドブック・ネット等で得た情報を整理すると以下のとおり。
@微妙な斜度のスラブ状岩壁。ホールドが乏しくややランナウト気味なため見た目ほど容易でない(特に降雪後で支点が見にくいとき)。
A上部にある垂壁は左右いずれかから巻いて稜上に出る。左上し立ち木のある草付きを登る左ルートの方が一般的。 |
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3ピッチ目(45m)
既に13時,今から登って本当に今日中に下りてこられるのか不安になる。実は標準コースタイム3〜5時間(下部岩壁取付〜上部岩壁終了点)を赤岳鉱泉〜石尊峰のものと勘違いしており、この時点で敗退は決まっていたようなものだったのだが。こちらの心理を見透かしたようにいつの間にか雲が覆い生温い風が吹き始めていた。 |
数箇所ある取付のうち白樺の木の上(ここにも支点あり)の少し右にある浅い凹角(ペツルの支点あり)から登った。残雪はほとんどなく支点は見やすかったもののしっかりしたホールドは少ない上、所々打ってあるピトンは信頼できなかった(つまんだだけで抜けた)。ただ概ね4〜5m間隔にペツルのしっかりしたボルトがあり、これに沿って登ったので垂壁下(中間部)までは比較的容易に感じた。 |
問題は中間部より上のルートファインディング。垂壁下のボルトを過ぎると左右いずれにも支点が見当たらず、安易に直登して行き詰ったのだ。
当初左ルート(注)を採るつもりだったがそこからはホールドが細かすぎ(中間支点も取れない)怖くてトラバースできない。仕方なくクライムダウンが短くてすむ右ルートを登ることにした。こちらはトラバースは容易だったが、段差のある岩場を越える際2点支持になる箇所があってちょっと緊張した。この上にあったボルトでランニングビレーをとり、さらに潅木のある草付きを登って、立ち木のある小岩峰の直下でピッチを切った(45m)。 |
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4ピッチ目(45m)
次は妻のリードで小岩峰の基部を左にトラバース,これを巻き登って稜上に出ると下部岩壁の登りは終了(左ルートと合流)。さらに雪のナイフリッジを渡った先の潅木でピッチを切った。
小岩峰基部は外傾しておりホールドが乏しいため(一見ガバホールドに見える岩は全て動く)ここのトラバースは意外に手ごわかった。 |
(注)翌日下降時に確認したのだが、左ルートは、中間部の一番上のペツルのボルトがある所から少し左上して草付きを登ればよかった。浮石は多いが傾斜は緩く立ち木が多いので支点にも困らない,そのまま稜に上がれて全般的右ルートを登るより容易で早いと思われる。 |
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【行程】前夜発1泊2日(山中ビバーク)
4/9自宅(横浜)22:50=第三京浜・環八経由=調布IC23:30=(首都高・中央道)=小淵沢IC 4/10 1:15=道の駅こぶちざわ1:20/5:30(仮眠)=美濃戸口5:50=美濃戸6:10/30---赤岳鉱泉8:28/9:55(テント設営・準備)---石尊稜登攀(山行データ参照)---赤岳鉱泉4/11
12:58?/15:45(食事テント撤収等)---美濃戸17:20/40?=美濃戸口18:00=道の駅こぶちざわ18:15/21:30(入浴・食事・仮眠)===自宅23:55? |
【山行データ】
4/10晴れのち曇り
美濃戸駐車場6:30-(柳川北沢)-堰堤広場7:20/30-赤岳鉱泉8:28/9:55(テント設営・準備)-石尊稜入口(注1)10:11/16-(柳川北沢右俣)-小同心ルンゼ出合10:35-石尊稜末端(注2)10:57--雪渓出合(注3)11:03-石尊稜取付点11:30/50-(ここからロープ使用以下同2P(45m+25m)注4)-下部岩壁取付13:05/10-(右ルート2P(45m+45m))-短い雪のナイフリッジ15:05/15-(草付きの急登50m+コンテ10m+50m)-雪稜手前の小岩峰16:45/17:10(作戦会議)-懸垂下降25m*2)-ビバーク地17:50 |
4/11曇り時々雨一時晴れ
ビバーク地6:50-(懸垂25m*2+コンテ40m)-下部岩壁上の小岩峰(雪のナイフリッジ直下)8:10/30-(左ルート懸垂(15m+10m))-下部岩壁上部垂壁直下9:30/45-(懸垂25m)-下部岩壁取付10:15/40-(懸垂25m*2)-石尊稜取付上11:35/45-(懸垂25m+シリセード)-雪渓出合12:10-石尊稜入口12:35/42-赤岳鉱泉12:58?/15:45(食事テント撤収等)---美濃戸駐車場17:20 |
注1:柳川北沢右俣に架かる小さな赤い鉄橋
注2:左に三叉峰ルンゼが分岐する出合
注3:石尊稜末端から本谷(右)を100mほど登ったところにある雪渓の出合。この雪渓,最上部は45度を超えるような急なもので登ると下部岩壁へ直接取付ことができる。
注4:注3の雪渓途中から岩稜に上がった。下部岩壁取付まではガイドブックではT〜U級の岩場とあり,また然程急でもないが、雪が消えた脆い岩場でホールド・スタンスが不安定。我々の技術ではロープを出さないと通過できなかった(ボロボロの岩場のトラバース等)。支点を取れる箇所が少なくペツルのボルトのある下部岩壁よりむしろ緊張したくらい。
雪渓が安定している時期なら注3の雪渓をダブルアックで登ったほうがよいかもしれない(?)。11日引き返したパーティーはここを懸垂下降していた(50mダブルで2ピッチ)。 |
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【参考文献】 |
1. |
日本のクラシックルート(山と渓谷社・1997年) |
2. |
アルパインクライミング(遠藤晴行編・山と渓谷社・2001年) |
3. |
日本登山大系8八ヶ岳・奥秩父・中央アルプス(編集柏瀬祐之・岩崎元郎・小泉弘・白水社) |
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