【はじめに】 |
北岳バットレス第四尾根主稜へ行ってきました。 |
北岳の姿かたちが好きで、一時期、冬の鳳凰山に通ったのもその写真を撮りたかったからでしたが、登る方となると19年前の百名山ピークハントで1度っきり。こんなに間が開いたのは、マイカー規制で広河原へのアクセスが面倒になったことも一因ですが、「次は北岳バットレスから」などと不遜なことを企んだからでした。 |
北岳バットレスは、北岳の東面,東北尾根から池山吊尾根の間に位置し、頂上稜線より大樺沢左俣まで切れ落ちた高差600mの岩壁を擁する南アルプスを代表する岩場です。 |
開拓期には(昭和初期から30年代まで)、その7本の尾根(第一尾根~第五尾根、中央稜等)、尾根間のガリー(a~e)、尾根の側壁やガリーの奥壁のすべてが登攀対象でしたが、近年登られるのは第四尾根周辺の岩場から中央稜に限られるようです。 |
今回登った第四尾根主稜は、バットレス入門の好ルートとして私たち初心者が目標とするばかりか、中級者も第四尾根側壁の各ルートからの継続登攀することが多く、上部で人が集中するためシーズン中の週末はとても混雑します。 |
ところで、バットレスが三段構成(下部岩壁帯・中間の岩場・上部岩壁)となっており、主稜ルートの通常の取付(第四尾根テラス)が中間の岩場に相当する位置にあることから、第四尾根テラスまでに、下部岩壁の登攀、横断バンドや緩傾斜帯の通過、第四尾根下部リッジ登攀又はCガリー等の歩きがあります(以下纏めて「前段階の登攀」と呼ぶ)。これが意外に長く、例えば、下部岩壁をdガリー大滝から登った場合、前段階の登攀が7Pにもなります。主稜ルート本体の10P(マッチ箱の懸垂を含み従来ルート8P+崩壊後の新ルート2P)と合わせると17Pのクライミングとなり、万年初心者の私たちが本当に1日でこなせるものかが(白根御池ベース)、まず、最大の懸念材料でした。 |
また、2010年10月の崩落事故以降、従来の最終ピッチに替わって加わった城塞を登る2ピッチ(リッジのトラバース+被ったチムニー)は、特に後者が「(今はdガリー奥壁最終ピッチで、崩落前は当該ルートのバリエーションライン(カラファテのジャック中根さんらが1981年にフリー化)Ⅵ(5.9)」らしいということから、本当に登れるのか少々不安でもありました。 |
そこで、第四尾根主稜ルートだけなら通常1泊2日が標準的のところ、初日をアプローチと偵察、二日目にアタック、三日目下山の2泊3日で計画。万が一登攀が翌日までかかっても最終日には確実に下山できるような日程としました。 |
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【山行記録】 |
1.入山・偵察(前編) |
8/18(日)晴れ時々曇り |
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前夜芦安駐車場まで入り車中泊。お盆休み最終日なら空いているだろうと思っていたら、駐車した第2駐車場は、乗合タクシー乗場となっているせいか6~7割位は埋まっていた。
始発(5:10)の乗合タクシーで広河原へ。 |
最後に広河原へ行ったのは19年前、マイカー規制が始まる前で、広河原には広い駐車場があったように記憶していたが、すっかり様変わりしており、小さなバスターミナルと、新しいアルペンプラザの建物があるばかり。 |
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アルペンプラザから北沢峠方面へ向かう車道を少しだけ歩く。左手に北岳がすっきりと見えており、八本歯の頭から北岳と続くスカイラインの右側、バットレス左端の顕著なリッジが第四尾根のようだ。野呂川にかかる吊り橋を右岸に渡る。これから登る人は、小屋泊まりかもしれないが、日帰りハイキングと思われるような小さなザックの人ばかり。ガイドマップを見ると、確かに、1700m近い標高差の割に距離が短いので、健脚の人なら日帰りも可能そう。今回は、妻35Lザック(14kg)、私40Lザック(18kg)、最近少しずつクライミングギアの軽量化を進めているので以前よりは減ったが、軽快に歩くにはもう少し軽くしたいところ。バイルと10本爪アイゼンは不要だったので、事前に小屋に問い合わせていれば、それぞれ1.5kgは軽く出来たのだが・・・・。 |
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6:36広河原登山口 |
6:54大樺沢と白根御池の分岐 |
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樹林の中のよく整備された道だが、汗はかきたくないので少しペースを抑えて歩く。20分程で大樺沢沿いのコースを左に分ける。ほとんどのハイカーは大樺沢コースへ向かい、静かになった。 |
分岐を過ぎると標高差で約400ⅿ、1時間強の急登で少々息が切れる。予想通り妻がペースダウンし、後から来た単独ハイカーに何度も道を譲ることになった。 |
傾斜が緩み、樹間から北岳が覗く。左側のスカイラインに第四尾根が確認でき、自ずとモチベーションが上がる。 |
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7:57木々の間から北岳、↓が目指す第4尾根。 |
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8:30白根御池着。10:17取付きまで偵察に出発。 |
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さらに30分程で白根御池小屋に到着(アルペンプラザから2時間1分)。早速テントの受付。 |
明日は登攀終了が遅くなったとき、又は、明後日、朝の写真が撮れそうな天候の場合には、テントは残したまま、肩の小屋泊にするつもりだった。ところが、その旨を告げても、「連泊でも毎日受付をしてください」と原則論を主張するばかり、上で泊まる可能性がある場合は、テントを撤収し担いで登攀するか、小屋の前にデポしていくしか手立てがないことがわかった。全装備で登攀するならこのまま出かけて取付付近にビバークした方が得策だが気が重い、また、朝撤収して出かけるのは面倒な上、サブザックを持参しなかったから、残していく荷物を纏められない。やはり、明日は登攀後戻ってくるしか選択肢はなさそうだ。 |
腹が減ったので、売店で聞いてみると、カレーならできるとのことで、2度目の朝食。テントを設営し、偵察に出発。 |
ところで、第四尾根は、北岳バットレスの南寄りに位置する顕著なリッジ。前述の通り、その「主稜」ルートの取付(「第四尾根テラス」)は、第四尾根の中段(バットレスの中間の岩場)にあるため、「第四尾根テラス」までに、まず、バットレス最下部に帯状に展開する下部岩壁帯を登らなければならない。 |
そして、この下部岩壁帯は、大樺沢左俣へ合流するバットレス沢、C沢、D沢のいずれかからアプローチするので、①その出合の特定、及び②出合から下部岩壁取付までのルートの確認、並びに③下部岩壁で予定している登攀ライン取付の特定が、偵察の主目的。さらに、アプローチでの残雪の状況(バイル・アイゼンの要否)も確認項目だった。 |
なお、アプローチ及び下部岩壁の登攀ライン等について、事前に入手した複数のネットや御池小屋で得た情報から、次のことが判明していた。
(1)2010年の崩落以降は、cガリー(C沢上部)に大量の土砂が堆積し、落石のリスクが高い。
(2)cガリーの横断が必要な、バットレス沢からアプローチし下部岩壁はbガリー大滝を登攀する、以前ポピュラーだった方法は避けられる傾向にある。
(3)最近は、C沢D沢の中間尾根からアプローチし、第五尾根支稜(推奨ライン)かdガリー大滝から下部岩壁帯を登る人が多い。
(4)(3)の方法なら先週より雪渓上を歩かなくて済む(小屋情報)。 |
したがって、前述の偵察目的①~③はより具体的に言い換えると
①大樺沢左俣とC沢及びD沢の出合の特定
②C沢D沢中間尾根にある踏跡のトレース
③第五尾根支稜、dガリー大滝の取付の特定
ということになる。 |
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まずは、大樺沢左俣とC沢及びD沢の出合の特定。これは、八本歯方面の一般ルート(大樺沢左俣)上にあるので、二俣を経由して当該ルートへ向かう。
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大樺沢二俣は、御池の横を通り(池の手前で草すべりコースが右に分岐)、樹林に覆われた道を20分程歩いた先にあり。簡易トイレが目印、暗いときでも確実に場所の特定が出来そうで有難い。
19年前は大樺沢コースからここへ来て、その先の雪渓歩きが新鮮だった。今回は雪渓はすっかり後退し、左俣コースはずっとガレ沢沿いの夏道、炎天下には辛い歩きだった。 |
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11:07ヒドンガリー出合 |
11:34バットレス沢出合バットレス沢は上部でaガリー、bガリーに分かれる。↓はバットレス沢の目印の大岩↑方向は八本歯のコル方面 |
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二俣から15分ほどで最初の涸れ沢(ヒドンガリー)の出合。そこから30分足らずで、バットレス沢出合。バットレス沢にはボルダーでも出来そうな大岩があり、明るければ特定は容易。
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