霞沢岳・八右衛門沢
(北アルプス南部)
2010年10月10日-11日
その2二俣〜霞沢岳・下山
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 ちょっとバリエーション ウェストンの足跡を訪ねて 
山の手帳

【山行記録(つづき)】

2.二俣〜八右衛門沢右俣〜中尾根〜稜線

二俣(2200m)8:50/9:03--(ガレ場・ザレ場)--中間尾根へ至るルンゼ出合(2370m)9:44--(脆いルンゼ〜急なガリー)--小鞍部(2520m)10:40/46-(ハイマツの多いナイフリッジ・薮漕ぎ)中尾根の岩峰基部11:15/30--(30mスタカット)--岩峰頂上11:49/12:05(ロープ畳む・写真)--K1K2間の稜線(2590m)12:23

ここで、ウェストンの霞沢岳山行(1913年8月26日)の様子を覗いてみよう。
【日本アルプス登攀日記(W.ウェストン著・三井嘉雄訳・ワイド版東洋文庫)より引用】
7時45分に、私たちは嘉門次と清蔵を伴って出発した。田代湖へ行く途中にある橋を渡り、左に折れて、巨大な峡谷(八右衛門沢)の麓までまっすぐ行った。この道が峡谷の上まで続いていて、上までは3時間以上かかる。丸石が散らばった傾斜は、はじめはほぼ平だがだんだん険しくなり、よじ登ったり、つかまり登りが続くようになる。

左手の花崗岩の険しい岩は、その形からして、ローゼンラウイ(スイスのグリンデルワルトの東にある)のそばのインゲルオルナールを思い起こさせる。私たちが霧の中に入るまでは、登り道の間中、ずっと上高地が見えていた。


最高点に達する直前に、私たちは突然右に曲がり、峡谷から抜け出すと、何百フィートも下から切り立っている絶壁のへりに立った。下の峡谷は霞沢として知られている。数分ののち、私たちは最高点(霞沢岳)にいた。この鋭く尖った頂上は、温泉からはその姿が見えないが、すばらしい眺めが確実に見渡せる。特に穂高や、上高地のうしろの山々からさらに向こうの笠岳の方向が。

  <中略>
ライム・ジュースでお祝いの乾杯のあと写真を撮り、12時7分、私たちは下りにかかった。乾杯をまねるように雨が降ってきた。下るにつれて雨はどんどん激しくなった。
  <中略>
午後3時少し前、温泉に戻った。途中それほど急いだわけではないが、下りに2時間50分しかかからず、これは一同大いによろこんだ。特に女性が登ったのは初めてだったので(フランセス夫人も同行)、加藤氏は、とても驚いた様子だった。
二俣 閑話休題
ゴルジュを抜け視界が開ける。真ん中に薮尾根が現れ、そこで八右衛門沢は左右に分かれた(二俣)。展望の良いところで休憩。背後には紅葉した尾根の上に奥穂も覗いていた。

二俣は、霞沢岳本峰へ近いという理由からK2ピーク寄りの右俣を登った。浮石だらけの岩場からガレ場・ザレ場の急登、あと1時間も登れば稜線へ抜けられると踏んでいたのだが、そうは問屋が卸さなかった。それは前回(奥穂南稜)同様ツメを誤り、途中で現れた中間の尾根へ至る顕著なルンゼに入り込んでしまったため。踏跡は全くなかったが、もともとあてになるようなものはなかったため気にしなかった(このとき地形図を出して確認すればよかったのだが)。基本的に脆い岩とザレのミックスした登り、上部は中間尾根の側壁が迫ってきてかなり急なガリーだった。信頼できる手がかりが得られず、刺したバイルを頼りに登った(コンテ、一部スタカット)。

稜線に抜けたと思ったところは中間尾根とその支稜の鞍部、落胆のあまり妻がへたり込む。いまさらこのルンゼを下降する気にはなれない。猛烈な藪だがとりあえず中間尾根まで偵察に登る。
中間尾根はハイマツが密集したナイフリッジ、右俣側は完全に切れ落ちているし、稜線までには垂壁を擁する小ピークを越えなければならず、ますます不安が募る。薮の急斜面を左俣へ下降してこれを登り返すことも考えたが大変そう。左俣はBプランとし、まずはリッジ直登を試みることにした。

薮を掻き分け垂壁に見えたピークの基部まで行ってみると傾斜は遠見ほどではなく、立ち木で中間支点はいくらでも取れる。一応スタカットで登ったが(30m)ピナクルのある頂上に容易に立つことができた。なかなか展望のよいところで稜線の左右のK1,K2ピークは指呼の距離、振り返ると焼岳〜西穂高岳〜奥穂高岳〜前穂高岳〜明神岳と馬蹄形に続く穂高連峰が一望できた。

穂高連峰

この後もブッシュ帯は続くものの、やや疎らになり、小鞍部からの登り返しでは途中から踏跡らしきものまで現れ、稜線まではすぐだった。

八右衛門沢地図(参考)

3.霞沢岳登頂・下山(徳本峠経由)

K1K2間の稜線(2590m)12:23--K2(2620m)12:26/30--霞沢岳(2646m)12:50/12:55--K2 13:14--K1(2590m)13:25/32--ジャンクションピーク(2428m)15:10/13--徳本峠分岐15:45--白沢出合16:48--小梨平17:18/18:10(テント撤収)--上高地18:17

(左)K2ピーク                             (右)右岸の岩壁
     (左)中間尾根から稜線へ出る        (中)中間尾根                  (右)K1ピーク   

薮と格闘しているときK1やK2ピークに見えたハイカー(3パーティー)も下山してしまい、稜線に上がっても私たちだけ。K2に荷物をデポして霞沢岳を往復する。
一旦下ってだらだらした稜線を登り返すのだが途中からガスってきて頂上に着くころには展望がなくなった。本来は穂高や焼岳・笠ヶ岳等の展望がよいらしく、ウェストンのフィールドノートにも記述がある。
予定より2時間遅れのため時間記録の写真だけ撮って下山にかかる。

         (左)焼岳      (中)霞沢岳頂上     (右)八右衛門沢右俣:右下が登った中間尾根

八右衛門沢下降の方が早い気もしたが往路の経路以外の正しい下降点が分からず、安全確実な徳本峠経由の一般道を下ることにした。整備された道なので当然ではあるが往路に比べると歩きやすく天と地の差。
唯一気になったのは、K2ピークから北西へ延びる尾根に一般道並みに明瞭な踏跡があり、下山時ぼんやりしていると迷い込みやすいこと。なお、一般道は右(北東)へ下る。この踏跡がどこへ続くのか定かでないが、位置から考えて八右衛門沢または上千丈沢遡行後の霞沢岳への登路のようだ。

(左)@K2ピーク A八右衛門沢左俣 B垂壁を擁する小ピーク(中間尾根)   (右)K1ピークより三本槍・六百山(先端の山)方面
ジャンクションピーク

K1から急下降後はだらだらした稜線歩きがジャンクションピークまで続き、疲れた身体にはこれがとても長く感じられた。まだ行ったことのない徳本峠はすぐ近くを通るのに時間切れで立ち寄れなかったのは残念、徳本峠越えの際にはゆっくり展望を楽しみたいものだ。
徳本峠分岐から白沢出合までの道は段差があまりなく膝の弱い私にはありがたかった。何箇所か沢を横切り水場があるのもありがたい。
明神を過ぎてからうす暗くなったが、最後は走るようにしてテン場へ、早々に撤収し何とか上高地を脱出することができた(タクシー)。

(雑感)
・前回の奥穂南稜といい、沢系のルートは不慣れなせいかルートファインディング(+読図)が難しく感じた。とくにツメのルートミスによりずいぶんタイムロスしている。今回は二俣を過ぎてから中間尾根に至るルンゼに入ってしまったのは、その存在を事前に読めていなかったため。
・一旦出したロープは不要なところでは面倒でも畳むようにして少しでもスピードアップすることが必要。もともと遅いのにコンテで歩いたため余計に時間がかかっている。
・アイゼンはザックの肥やしだったが、バイルは必需品、今回も持ってきてよかった。

・今回の登りの時間(休憩込み)のY/W「山の手帳」/ウェストン)=465分/225分≒2.1

【山行データ】
10/11(月)曇り時々晴れ
小梨平(テン場)4:40--帝国ホテル前5:00--八右衛門沢橋(1520m)5:05--(左岸脇の林道)--表六百沢出合(1610m林道終点・注1)5:17--(堰堤の連続)--標高1670m地点5:35--(水流のあるゴーロ帯)--地点左岸最初の沢との出合(1830m)6:20/32--(チョックストーンのある涸れ滝が連続・これ以降稜線までロープ使用)--三本槍沢出合(1890m)6:55--(涸れ滝・巨岩帯)--二俣(2200m)8:50/9:03--(ガレ場・ザレ場)--中尾根へ至るルンゼ出合(2370m)9:44--(脆いルンゼ〜急なガリー)--小鞍部(2520m)10:40/46-(ハイマツの多いナイフリッジ・薮漕ぎ)中尾根の岩峰基部11:15/30--(30mスタカット)--岩峰頂上11:49/12:05(ロープ畳む・写真)--K1K2間の稜線(2590m)12:23--K2(2620m)12:26/30--霞沢岳(2646m)12:50/12:55--K2 13:14--K1(2590m)13:25/32--ジャンクションピーク(2428m)15:10/13--徳本峠分岐15:45--白沢出合16:48--小梨平17:18/18:10(テント撤収)--上高地18:17

【参考文献】
1.山と高原地図37槍ヶ岳・穂高岳(昭文社・2005年版)
2.現代登山全集2槍・穂高・上高地(諏訪多栄蔵・山崎安治・安川茂雄・山口耀久編・創元社1975年)
3.日本登山大系7槍ヶ岳・穂高岳(柏瀬祐之・岩崎元郎・小泉弘編・白水社・1997年)
4.アルペンガイド槍・穂高連峰(渡辺幸雄著・山と渓谷社・2009年)
5.日本アルプス登攀日記(W.ウェストン・三井嘉雄訳・ワイド版東洋文庫)
6.日本アルプス再訪(W.ウェストン著・水野勉訳・平凡社ライブラリー)

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