奥穂高岳南稜
(北アルプス南部)
2010年9月24日-26日
その1アプローチ・南稜ルンゼ偵察
→その2

 ウェストンの足跡を訪ねて ちょっとバリエーション
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稜○」と「陵×
最近、阿弥陀南稜・北稜、奥穂南稜・北穂東稜、一ノ倉沢烏帽子南稜等をネット検索すると、「」が「」となっている記述をよく見かけます。これらは、一応、急峻な岩稜上にある登攀ルートで、その尾根は角張っているので、」が正しいことは言うまでもありません。
「陵」という誤記は、上掲のようなバリエーション入門・初級ルートに関する記録に集中しており、「屏風岩東稜」等少し難しいルートでは、見かけません。
そもそも、「陵」は、丘陵、天皇陵等、こんもりした丘のような地形に使われるのですが、日常生活で馴染みの深い宅地においては、「陵」の方が「稜」より使用機会が多いようです。このため、宅地ではないのに、例えば、「おくほなんりょう」をワープロソフトで変換したり、ネット検索をしてみると、変換候補として「稜」より「陵」の方が先に出て来てしまい、これが誤字の原因だと思われます。
因みに、山岳地形では、山稜(尾根)、稜線(ピークとピークを繋ぐ尾根)等、「稜」は使いますが、通常「陵」が使用されることはありません。
私は、冒頭に掲げたような初心者ルートでも、いざ行くとなると、結構、緊張するので、検索などで、お墓を連想させる南「陵」などという記述は、何となく不吉で嫌な印象を受けてしまいます。こんなことを書くのは大人げないと思ったのですが、単なる誤字と見過ごせないほど多いので、敢て取り上げてみました。
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【はじめに】
奥穂高岳南稜はW.ウェストンが1912年8月24日に初登した超クラシックルート(無雪期は初心者向けバリエーションルート)、翌年には夫人同伴で再登もしています。
私たちは昨年8月に登ったものの、取付を間違えて左側の支稜から登り、満足できない山行となってしまいました(図らずもトリコニーまでずっと薮漕ぎ、T峰も踏んでいない)。
そこで、今回は@ウェストンが辿ったと思われるルンゼ(下部で左右に分かれた南稜の支尾根間のルンゼ)を登り、AトリコニーT峰に立つことの2点を目標に再挑戦しました。
なお、ウェストンの2度の奥穂南稜登攀(1912年・1913年)はいずれも上高地から日帰り往復(10時間20分,14時間)です。技術・体力・特にルートファインディングに自信があれば上高地から日帰りアタックもあながち不可能とはいえませんが(最近の記録でも見たことはある)、昨年の経験から私たちにはとうてい無理。
上高地の交通規制による制約があるため、仮にトライしてもアタック日前日か下山後に上高地泊まりとなり大したメリットはないし、日が短くなったこの時期にやるのはリスキーと思われました。
そこで、初日は岳沢泊まりとし、ルンゼルートの取付周辺まで偵察、翌日アタックしてそのまま下山という計画にしました。ただ、事前調査ではルンゼコースもルートファインディング次第で所要時間にばらつきが大きく、昨年の自分たちの実績も勘案して予備日を1日設定しました。
とはいえ、下部の経路が異っても南稜は2度目、本音は1泊2日で行けると思っていたのですが・・・・。

【山行記録】

【行程】2泊3日(岳沢幕営)
9/24(金)自宅(横浜)=沢渡大橋=(シャトルバス)=上高地−岳沢(南稜ルンゼ取付偵察・幕営)
9/25(土)岳沢−奥穂高岳南稜(ルンゼルート)−南稜の頭(3140m)−紀美子平−岳沢(幕営)
9/26(日)岳沢−上高地=沢渡大橋=自宅(横浜)

 【メンバー】夫婦2人
9/24(金)曇り
1.アプローチ

上高地(標高1505m)9:25--岳沢登山口9:42--7番標識(1690m・風穴・明神岳西南稜取付)10:12/15--5番標識(1830m)--2番標識(2030m・胸突き八丁)11:06--岳沢小屋(2170m)11:20/47(テント受付・休憩等)--岳沢テン場11:53/12:49(テント設営・昼食)

今回は岳沢泊まりのため当日早朝に出発し、4時間ほどでいつもの沢渡大橋駐車場へ到着(車は2/3くらいの入り)。中途半端な時間ということもありシャトルバスは空いていた。 
真夏のような北鎌山行から3週間、上高地もすっかり秋めいて少し肌寒く感じた。二人ともサポートタイツ+ショートパンツという井出達でちょっと心配だったものの、歩き始めればむしろ暑いくらい。樹林に覆われた岳沢登山道はよく整備されていて歩きやすい。概ね標高70mごとに番号標識もありペース管理にはありがたかった。
6番標識あたりから岳沢(涸れ沢)が見え、その左岸沿いを歩く。晴れていれば奥穂〜西穂の稜線の展望がよいのだが、ガスで真っ白。ナナカマドの実は既に真っ赤になっており、もう2週間もすれば紅葉シーズンになるかもしれない。
1番標識(小屋見峠)を過ぎると岳沢へ下って右岸へ渡る、わずかな登り返しで岳沢に到着(上高地から約2時間)。
昨秋下山時に通ったときは(明神岳主峰東稜)再建中だった岳沢の山小屋は、オーナーも替わり今夏から「岳沢小屋」として再び営業をはじめた。岳沢ヒュッテの時代には1992年秋に一度休憩させてもらっただけ、紅葉が綺麗だったこと以外ほとんど印象になかった。 
新しい小屋はプレハブながら小奇麗で、雛壇状の石積みには下からトイレ棟・受付棟・宿泊棟が建っていた。定員30人ということもあり宿泊には事前予約が必要。ちょっと泊まってみたい気もしたが、バリエーションでは日程や到着時間が変わりやすいこともあって、今回も幕営とした次第。
トイレの前には更衣室があったり、休憩もできる管理等では昼食・喫茶サービスのほか誰でも見ることができる天気情報サービスがあったりと、途中で立ち寄る登山者にも便宜が図られているように感じた。ただ、若いスタッフが多く尋ねても奥穂南稜についてはほとんど情報を得ることができなかった。岳沢は初心者〜中級者向けのバリエーションルートの拠点でもあるので、その手のコースについてもアドバイスできる人がいるとありがたいのだが。
管理棟の前で給水し(常時ホースから流れている)テン場へ向かう。テン場は岳沢左岸付近の重太郎新道沿いに点在しており(ヒュッテ時代と同じ)まだ数張しかなかった(小屋のHPでは30張可能)。昨年と同じ場所に設営する。アブの波状攻撃に悩まされたところだが(今回も防虫グッズ持参)一月遅いとほとんど虫の姿もなく助かった。
2.南稜ルンゼの偵察
 
岳沢テン場12:49--(南稜取付・3m小滝偵察)--岳沢テン場15:40(幕営)
(1)岳沢〜滝沢雪渓
南稜ルンゼルートの偵察に出かける。ガスっていてトリコニーはおろか岳沢上部も見えないが、昨年間違えたルンゼの取付だけは確かめておきたかったからだ。 
しばらくは全く残雪がなく沢床の巨岩を縫うように歩く。浮石が少なく、昨年の右岸沿いのザレ場歩き(∵かなり下まで不安定な雪渓が残っていた)より楽だった。10分ほど登ると扇沢(文献2ではこちらが本流)と滝沢が合する滝沢出合となるも、ここには残雪がなくほっとした(∵出合はシュルントが出来やすくこの時期もし残雪があるとスノーブリッジとなって通過困難と予想された)。 
出合より先、滝沢には雪渓が残っていた。右岸側は十分な厚みがあり、アイゼンを装着し念のため10mロープもつけて歩いた。水の涸れた滝沢大滝がぼんやりと覗くようになるとすぐ前に雪渓を横断するギャップが現れる、まだ開いていないがシュルントになるのは時間の問題だろう。 
ギャップの手前を少し戻り右岸へトラバース、雪渓の端はラントクルフトもなく安定しており歩いてランディング。
最初はゴーロ歩き 滝沢出合:左手前のガレは扇沢 滝沢雪渓

(2)ルンゼ取付の偵察

アイゼンを外し右岸のザレ場を少し登る、ここは一抱えもある大岩が簡単に動くし、最上部はラントクルフトもあり注意が必要。浮石に気をつけて雪渓の一段上のスラブに上がり、滝沢大滝の方(右)へトラバース。頭上には小さな沢型がいくつかあって紛らわしいが、目指すルンゼは滝沢のすぐ左隣にあり(一番右のルンゼ)、見事な柱状節理となった南稜右支稜のすぐ手前が取付だった。 
取付から階段状の岩場を登ると、目の前に高さ3m強の涸れた小滝が現れる。短いが70度くらいあってちょっとした岩登り、少し右寄りに弱点がありホールドも多くピンもあって然程難しくはなかった(V)。
登った先は緩いスラブ、その後には各段3mトータル10mほどの小滝が続いていた。ここまでは、事前に得た情報通り。14時を大分過ぎたこともあって偵察はこれで打ち切ることにした。
往路をテン場に戻る。雪渓に上がる前に斜度を計ってみたところ、ちょうど30度くらいだった。この季節は雪が堅いので雪上を歩くならピッケルか軽アイゼン使用が無難かもしれない。
雪渓から右岸に渡る 右岸を歩く 下の小滝へ 下の小滝は右コーナーに弱点
ここで、ウェストンの初登攀の様子(上高地〜南稜ルンゼ取付)を覗いてみよう。
【日本アルプス再訪(W.ウェストン著・水野勉訳・平凡社ライブラリー)より引用】
大雨の日の水が梓川にあふれ、渡渉点を見つけるのがむずかしかったが、河童橋の先で川を渡るのに成功する。繁茂したクマザサとぎっしり生えた下草がひどく水気を帯びており、やがて身体の中までびしょ濡れになる。こうして1時間以上も進むと森林のただ中に入っていく。
<中略>
やがて、入り組んだ木の根で歩きにくい、滑りやすい道を離れて、白沢の幅広い岩だらけの川を、1時間ほど苦しみながら登る。この沢は奥穂高の中央部を構成する凹んだ岩壁の、真ん中の基部に真っ直ぐ延び上がっている。沢のモレーン状の河床の上部は、小山のように高まった、吹きさらしの長い雪渓に覆われている。これは、われわれにとって喜ばしい救いであったが、それも最後は深さ九メートルほどのベルクシュルントに突き当たる。そこで、注意しながらピッケルとロープを使ってその中に下りていき、とうとう、先の岩場の安全地点に無事達した。
閑話休題
水汲みに行った際、小屋の気象情報画面を見てびっくり、なんと日本近海に台風があるではないか。数日前から天気予報は気をつけていたつもりだったのだが寝耳に水。慌てて携帯で穂高岳の天気を確認する。今晩から明日未明にかけて雨が降るもののその後は一応曇りの予報。ヘッデンスタートのつもりだったがこれでは少し様子を見た方がよさそう、状況次第ではアタック中止の可能性もありいっぺんに気分が暗くなった。
→その2 
 ウェストンの足跡を訪ねて ちょっとバリエーション
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