ウェストンの足跡を訪ねて
筆頭岩(西上州・金鶏山)
2009年12月2日(日帰り)
826m
筆頭岩

中之岳駐車場付近より 一本杉前の駐車場(管理事務所駐車場)付近より
                                 

【はじめに】
筆頭岩は(ろーそくいわ又はひっとういわ、前者が本来の読みらしい)、金鶏山(西上州)の西端にあり、妙義山に登る都度、その天を突くような鋭い岩峰(特に中之岳神社駐車場辺りから見たとき)が気になっていました。

ただ、エアリアマップには金鶏山一帯が登山禁止とあり、10年以上前の地図にもルート表示がなく(星穴岳同様かつては一般道)、また私が一時期懸垂恐怖症に陥っていたこともあって(一般的に下山は東尾根方向への空中懸垂を交えた3ピッチの懸垂下降となる)すっかり脳裏から消え去っていました。
最近、ウェストンの著作を読んだり、その足跡をネットで調べているうち、彼が第三次滞日期間中(1911年〜1915年)に、根本清蔵と、ロープを使った登攀を日本で初めて実施。その場所が筆頭岩であると知り(*)、再び興味を持つようになりました。
ネット検索してみると、筆頭岩は最近も結構登られており、表示や鎖も残っているとのこと。ルート図を入手できず一抹の不安はありましたが、顕著なリッジ(南稜)通しのなので、取付さえ分かれば何とかなるだろうと思い、挑戦することにしました。
なお、金鶏山が登山禁止となっている理由が、縦走路の直下を並走する通過交通への「落石の危険を回避するため」らしいので(未確認)、花見・紅葉シーズンを避けしかも平日に登った次第です。特に南稜取付手前の垂壁直下を歩いている時は遥か下の道路を直撃することになり絶対に落石を起こさないよう細心の注意することがが必要です。
(*)1912年9月5日、ウェストン夫妻は根本清蔵とともに当時未登だったの筆頭岩南稜に登攀。彼のクライマーとしての才能や段取りの良さに惚れ込んだウェストンは、第三次滞日期間(1911〜1915年)のほとんどの山行に清蔵を帯同している。:参考文献「日本アルプス登攀日記」。

【山行記録】

序章.登山口探しで一苦労(これは単なる失敗談)

バリエーションルートというと、たいていは道標がないため、登山口(又は取付)を見つけるのに苦労することが多い。とは言え、筆頭岩登山道は、かつては一般道、すぐ見つかるだろうと高をくくっていると、初っ端から躓いた。

まず、一本杉前の駐車場の特定に手間取った。金鶏山の周辺には、「きんけい橋駐車場」から「中之岳駐車場」まで5箇所の駐車場があり(中之岳駐車場以外は利用したことがない)、「一本杉」が道路から離れたところにあって、車で通るだけでは分からないからだ。
他の人の山行記録に、「登山口」付近から撮った筆頭岩南稜の写真があり、これと照合しながら、「見晴駐車場」〜「中之岳駐車場」を2往復。すると、「一本杉の前の駐車場」が、下仁田町商工観光課のHPにある「管理事務所駐車場(以下、駐車場)」と思われたので、その駐車場に車を停めた(9時少し前にゲートが開いた)。準備をして登山口探しに出かける。
(追記)この「駐車場」は、「妙義さくらの里」の公園管理事務所駐車場で、「きのこ館」トイレ等がある。
「駐車場」を出て筆頭岩の方を見ると、登山道は道路(紅葉ライン)の一段上に並行してありそうだが、一見しただけでは、上に登る踏跡は見つからなかった。車で走っているとき、「駐車場」のすぐ先(中之岳駐車場方向)に、右に分岐する道があったことを思い出す。そこは、「一本杉」の入口で、車止めのゲートと「一本杉まで90m」の表示があった。

     一本杉入口                 管理事務所駐車場(道路の右の敷地)
ゲートの先には、白い建物があり、その前に立派な杉の木(一本杉)がある。先は、妙義神社方面の登山道となっており、右手には「筆頭岩は登山はできません」の表示があった(トラロープで塞がれていた)。ロープの先は、明瞭な踏跡が続いており、これが、かつての登山道らしい。
潅木の中の踏跡を辿ると、道路の上に出た。ところが、落石防止のためかアスファルトが盛ってあって、元々細い踏跡が一層通過を困難にしている。左手の崖を下りてこの部分を回避することも出来そうだが、ちょっと大変そう。
前述の山行記録を読み返すと、『「駐車場」の少し手前(見晴駐車場側)に階段がある』とあったので、「駐車場」まで戻ることにした。

       一本杉          かつての筆頭岩登山道か(この先通過困難箇所があり×)
1.一本杉前の駐車場〜筆頭岩南稜取付(ここから本論)

再び「駐車場」から仕切りなおし。先刻の偵察で、道路の一段上が登山道であることは、ほぼ確実。道路から登山道の分断箇所の先へ上がる階段を探してみる。

左を注意しながら少し歩くと、道路脇に木の枝から下がったピンクのテープが見える。そこには、確かに、登山道へ上がる踏跡があり、コンクリート板のステップが10枚ほど埋め込まれていた。これが、記録の『階段』らしい。
薄い潅木に覆われた登山道は、出だしこそ、道路のすぐ上で、道幅も広かったが、筆頭岩の山腹の登りにかかると、道路との高低差が大きくなり、右手が切れ落ちた険しいものとなった。
程なく、左手は垂直な岩壁(南稜の西壁で後述の核心部の直下付近)となる。この先難路が続きそうなので、ヘルメット等を装着する。
筆頭岩の取付は、西壁沿いに登って尾根(ルートのある南稜)を乗越し、さらに東へ続く金鶏山への縦走路から左手に一段登ったところ(木にペンキ印あり)。所々立ち木があるが、西穂奥穂縦走路の間ノ岳や天狗岳の西穂側斜面に似た風景だった。
なお、西壁手前にちょっとしたルンゼがあり、踏跡らしきものがあったため、引き込まれてしまいタイムロス(西稜の方へ続いており×)。

登山道へ上がる「階段」 しばらくは普通の登山道 左手に現れる垂壁
            
2.南稜取付〜筆頭岩(P1)
取付からその上の立ち木のあるピーク(頂上から下に向かって4番目のピークでP4と呼ぶ、以下同様)までは、比較的緩い岩場歩き。その先は傾斜が増し、上部の様子もわからなかったので、ロープを出す。

  南稜取付からP4へ登る                   上がP3(大テラスがある)〜P4より   

実際に登ってみると、P4〜P3はU位であっけなく終わる。P3は広いテラスでリングボルトが三本打ってあった。通常は、どうもここからロープを出すようだ。
つるべの予定だったが、あまりにつまらなかったので、2ピッチ目も私(kn)がリードで登る。


   P3(大テラス)への登り               P2への登り               P2からP3(大テラス)を振り返る

P2は正面から見ると急に見えるが、取付いてみると45度程度の階段状のリッジ登攀(V−)。西上州には珍しく岩も堅く、有効なボルト・ピトンのほか立ち木もあり、見た目よりずっと安全な印象。

 2〜3人がやっとという感じの狭い頂上は、高度感がありちょっと怖い。ただ、立ち木・ピトンがあって信頼できる支点が取れるのでセルフビレーを取っていれば安心。無風快晴の小春日和で、クライミングには最高のコンディション。左手間近に見える表妙義の展望が良かった。
左画像:表妙義金洞山(筆頭岩南稜P2より) 
     1.管理事務所駐車場 2一本杉.

ここからP1(頂上)へは35mロープで2ピッチのリッジ登攀だった。
前半のピッチ(3ピッチ目)が核心で(V+)、高所恐怖症のknに替わり妻(mon)がリード。
3ピッチ目は記憶によると

@数m下り幅60〜80cm長さ5m程の水平なナイフリッジを渡って
A古い鎖(使用しないほうが無難)がついた60度くらいありそうな急なリッジ登攀となる(信頼できるピンが数本打ってあり上部にある鎖の支点からもランナーが取れる)。
B鎖の取付けられている太いピンあたりが通常は終了点
私には@の通過が怖く、全く足下を見ることが出来なかった。
ウェストンの「日本アルプス登攀日記」では、トップを登っていた根本清蔵がここでスズメバチの襲撃を受け(頭を刺されて瞼が腫上った)片目で登ったというエピソードがあり、ウェストンは「ハチの渡り」と呼んでいたらしい。
Aは概ねV位、フォローだったこともあり然程緊張しなかったが、2ピッチ目と比べるとピンが少なめ。スタンスは大きく安心だが、上部に一箇所あまいホールド(カチ)があった。そこは、支点から少し離れており(ややランナウト気味)、核心部らしい(V+〜W−)。クラックがあるのでカム類をもって行くと有効だと思う。
人工壁では私より上手い妻だが、簡単とは言え普段ゲレンデでもあまりやらない外岩リードに緊張したようで、いつもなら考えられないピンの見落としがあった。

ナイフリッジをわたり(左) 古い鎖の付いた急なリッジを登る(中・右) 右画像の木の辺りが頂上。↓を懸垂下降する

4ピッチ目は傾斜が緩みやや東に屈曲した岩稜を歩く(T〜U)。3ピッチ目で上記Bより少し下でピッチを切ったため、最後10m弱がコンティニュアス(連続登攀)となった。


P1リッジ上部よりP2を振り返る(ハチの渡り)  東へ屈曲したリッジを歩いてP1頂上へ(4ピッチ目)
                       

P1頂上から4ピッチ目を振り返る  金鶏山方面
3.下山

潅木がありちょっと藪っぽい頂上は意外に広くゆっくり出来るが(ビバークできそう)、筆頭岩はむしろ下降の方が問題なので落ち着かない。踏跡をそのまま辿ると頂上の東端に比較的新しい10mmのロープスリングがかかっておりカラビナも残置されていた(比較的太い潅木とピトンが支点)。10m程下に見える潅木のある広いテラス(上段テラス)が一回目の懸垂の目標のようだ。

行動食で軽く昼食をとった後登りで使った35mロープで下降開始(念のためスリングを1本足した)。岩土混じりの崖状〜垂直に近い岩場で落石に気をつけて上段テラスへ下りた。

ロープの先が上段テラス(左)            上段テラスの2回目懸垂下降点(右)            

2回目は下降する方向の見極めがポイントだった。
比較的広いテラスは南側が下り斜面となっており中央に太い立ち木があって頂上と同じスリングにカラビナがかかっていた。スリングが南に向かって下がっていたので(フォールラインだから当たり前なのだが)当初南側に下りるのかと思ったがこれは誤り。地形図をみても下まで50mはあり方向を間違って中間テラスがなければお手上げ(持参したロープは2本繋いでも有効長はせいぜい30m)。

先人の記録を見ると金鶏山へ続く東尾根へ下降するらしく20m程下にある中段テラスは上段テラスから見えないとのこと。そこで東側を観察してみると下り口の候補として東北東と東南東の2箇所があった。
東北東の方は15mくらい下に潅木のあるテラスが見えるが、こちらは下り口の岩が苔むしていて記録にあったテラスではなさそう。
他方、東南東の方は岬状に伸びた岩場で、出だしが怖そうだが、行ってみると先に細い潅木があり古いスリングもかかっていた(中段テラスは見えない)。どうもこちらから下降するようだ。
35mロープに30mロープを繋いで後者を下降する。1回目同様最初は土混じりの崖状で途中からやっと足先が届くくらいの垂壁の下降。20m強で中段テラスに着いた。
ここは、上段のものより狭いテラス。壁面にリングボルトやピトンが数箇所打ってあり、懸垂支点として利用できる。
 3回目は終了点に立ち木があり、投げたロープがひっかかってちょっと苦労した。
上部は垂壁、下部は我々初心者には人工壁でしかお目にかかれない完全にかぶった岩場で、快適な空中懸垂となる。25m強の懸垂で終了点の尾根に下り立つ。
何度もやり直したのだが、投げたロープはやはり木にかかっており、下降途中で両手を使っての作業となった。下降器は、ルベルソにバックアップをとって使用しているが、この手のトラブルに落ち着いて対処できるので助かっている。

左:懸垂下降2回目                       中及び右:懸垂下降3回目           

終了点から筆頭岩の岩壁に沿って南へ少し歩くと南稜取付に戻った。往路を気を引き締めて下る(特に落石を起こさないように注意した)。

午後になって光がまわり、下り立った道路からは三角定規を立てたような筆頭岩南稜が全容を現していた。
 【行程】

自宅(横浜)4:58=第三京浜・環八経由=練馬IC5:50=(関越道)=松井田妙義IC7:42=(迷う・開門待ち)=一本杉駐車場8:45/8:55−一本杉9:00/03−登山道引返し点(注)−一本杉駐車場9:15(以降山行データ参照)−登山口−筆頭岩−登山口−一本杉駐車場=中之岳神社駐車場(写真)=下仁田(買い物(葱・こんにゃく))・秩父(宵祭り見物)経由=花園IC==>往路帰宅

  注:落石よけのアスファルトが登山道を塞いでいて通過困難
 【山行データ】

12/2快晴
一本杉駐車場9:15−筆頭岩登山口(注1)9:17−筆頭岩南稜西壁下(注2)9:24/50−南稜取付点(注2)9:52/54−P4(注3)9:58/10:13−(隔時登攀20m)−P3(大テラス)10:20フォロー着/25リード発−(隔時登攀25m)−P2(ナイフリッジ手前の岩峰)10:34/45−(隔時登攀25m)−鎖場上部10:56/11:02−(隔時登攀35m+10mコンテ)−P1(筆頭岩頂上)11:08/30−(懸垂下降10m弱)−上段テラス11:38/58(注4)−(懸垂20m)−中段テラス12:12/25−(懸垂25m)−懸垂終了点(東尾根上)12:40/53−南稜取付12:58−登山口13:10−一本杉駐車場13:12

注1:一本杉駐車場から少し道路を下りて道路脇の石の階段がある所が登山口(全く表示なし)。
※駐車場のすぐ先の入口(道標あり)から上ると「一本杉」に出るが「筆頭岩には登れません」の表示がありトラロープで塞いである。先に明確な踏み跡がありこれを辿っても「登山口」に出るが、途中落石防止のためアスファルトで道を塞いであり通行困難。
注2:登山口からしばらく歩くと垂壁が現れる。これは南稜の西壁にあたり取付はこの垂壁沿いの道をひと登りし(南稜を乗越す)ペンキ表示のある木から左に入った所。
なお、西壁付近はすぐ下を道路が通っており「落石は絶対厳禁!」。
また、垂壁手前の小ルンゼに踏跡があり、つられて登ってしまいタイムロス、ここで登攀準備。
注3:便宜上、筆頭岩頂上をP1とし上から4番目の小岩峰。少し急な岩場となるのでここから念のためロープを出して登った。ただ、一段上のP3が大テラスとなっており、そこからロープを出す人が多いようだ。
注4:テラス真ん中の潅木を支点とし、金鶏山へ続く東尾根の方向へ下りる。
少し下りないと目標のテラスが見えないため戸惑うが、テラスの先端付近に細い潅木があり古いスリングがかかっていて目印になった。
 
筆頭岩南稜 
 2009年12月 2014年12月 
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