紅葉の御前ヶ遊窟(越後)
2009年10月31日(前夜発日帰り
 ちょっとバリエーション
 山の手帳

上:御前ヶ遊窟の岩搭群(シジミ沢の登りより)
右:御前ヶ遊窟
 10/31(土)に御前ヶ遊窟へ行って来ました(登り:シジミ沢コース・下り:ソウケイ新道)。
 
 【はじめに】
平維茂の夫人が隠れ住んだという伝説のある御前ヶ遊窟は林立する岩搭群の基部にある岩穴。紅葉が綺麗で行程が比較的短く、しかも一般ルートには珍しいスケールが大きいスラブの登りがあることから妻が以前からリクエストしていました。ただ、関東からは日帰り山行にはちょっと遠く(交通費も嵩む)いざとなると二の足を踏んでいました。今年から高速の休日特別割引を利用すると格安になったため(練馬IC−津川IC:なぜか1600円/関越道−北陸道−磐越道)行ってみることにしました(前夜発日帰り)。

 【山行記録】
1.林道入口(駐車場)〜シジミ沢出合
このコースはハイグレードハイキング(山と渓谷社)の岩山四つ星ルート(一般難ルート)として紹介されておりネット検索でも記録が多数ヒット、紅葉時期の週末は混むのではと案じていたが林道入口(ここまで舗装道)の駐車場は1台の車も止まっていなかった(準備をしている間に林道に1台入って行った・最終的にこの日は4パーティー)。
林道(未舗装)を5分ほど歩くと登山口に着く。ここは林道終点で数台の駐車スペースと登山ポスト(中に入山記録ノートあり)があった。先刻のワンボックスが止まっており挨拶を交わす。いずれも我々より少し年長に見える3人パーティーでこちらが記帳している間に出発した。
はじめは平坦だがすぐ鍬ノ沢への急下降となる。昨夜雨が降ったのかステップには水が溜まっているところもあり先が思いやられる。
白い川床の鍬ノ沢を飛び石伝いに渡って右岸沿いの道を登る。九十九折の道には枯れ葉が積もっており遅かったかと諦めかけていると、ガスの切れ間から対岸の色づいた山腹が覗いてほっとした。
 程なく標柱(「登山道合流点」の表示)のあるタツミ沢入口、右にソウケイ新道(鍬ノ沢へ下降)が分かれる。この先は豪雪のせいか根元がU字型に曲がった立木が目に付いた。
岩壁の下を過ぎた辺りから細い枝沢が何本も入る、中には流水があるものもあって落ち葉の高巻き道はぬかるんでいやな感じ。この頃には本格的に晴れてきて左岸側には紅葉が点在する大スラブが見事、シャッターを切りながら歩いたが足元が滑りやすい上細いので落ち着かなかった。
左画像:鍬ノ沢左岸側の大スラブ(ソウケイ尾根の側壁)
一旦鍬ノ沢本流に降りて川原を歩くところがあったがすぐに右岸沿いを登り返す。流水のある沢(菅倉沢)を渡るとシジミ沢出合はすぐだった。
出合は左に魚止めの滝(鍬ノ沢)があり、本流を渡った先の小さな涸れ沢がシジミ沢だった。出合で先行の3人が登攀準備をしていた。デジタル一眼はザックにしまいこちらも登攀モードにはいる。
(左)魚留の滝     (中)シジミ沢出合付近     (左)テープの所がシジミ沢の入口
2.シジミ沢〜御前ヶ遊窟
入口にぶら下がっているテープに従ってシジミ沢に入る。最初は落ち葉の載ったゴーロ歩き、次いでトラロープの助けをかりて連続する巨岩の上を歩く。頭上を潅木が覆い標高が低いせいかこの季節でも時折大きいアブが飛んでくる。
しだいに視界が開け前方に御前ヶ遊窟が覗くようになると、ちょろちょろと流水のあるスラブ登りになった。左岸には潅木を支点にトラロープが下がっているが頼りなさそう、傾斜は緩いものの2人とも磨耗したアプローチシューズだったので登り難い。
しばらく我慢して歩いたが途中の平坦な展望地でフラットソールに履き替える。効果は絶大で濡れてようがどこでも登れるようになった。
紅葉に彩られた岩峰群が見事、写真を撮る度にザックを下ろすものだから一向に進まなかった。
中間部は少し傾斜も増し起伏のあるスラブ登り(とはいっても大半はノーハンドで登れる斜度)、岩も乾いてきてホールドも豊富なため快適に登れる。上手くなったような気になるが単なる錯覚。
浅いルンゼ状の岩場を抜けるとさらに傾斜が急になり、振り返ると岩の滑り台のようでちょっと怖い。
スラブ上段は岩塔(御前ヶ遊窟)直下の潅木帯までの登り、少し急だがフリークライミングルートのスラブなどと比べれば斜度は格段に緩くそのまま直登できそうにも見えるが、下手にロープを出すと時間もかかることだしルートどおり登ることにする(∵ぱっと見あまり支点がなさそうだし、直登はほとんど情報収集していなかった)。
一般道は左岸(右)のスラブ縁にある鎖に沿ってしばらく登った後、その上はさらに右の急な潅木混じりの草付きを登る。ここで先行の3人パーティーに追いついた。
草付き迂回ルートも短いトラバースや潅木をつかみながらの急登で、一般道ではかなり難ルートの部類(西上州でいえば碧岩あたりか?)。
 ←スラブ上段が見えてくる
鎖等を目印にルート通り(左岸沿い)に登る 大スラブ(ここもルートファインディングが的確なら難しくなさそうなのだが)
途中の古い鎖場から先の3人に道を譲られる。鎖は使わず右の岩場から上に出てみると先は高さ4〜5mの急なスラブ(40度くらい鎖も支点もなし)となっており踏跡も不明瞭、「おかしい」。この岩はホールドが細かく小川山ガマスラブの一番易しいルート(5.6)の下部くらいはありそう。どうみても一般ルートとは思えない(それまでの鎖のある岩場はここより明らかに容易だった)。
トップを歩いていた私には左の大スラブに戻って登った方が容易に見えた。こちらは緩そうなスラブからカンテ状に出て草付きの凹角を登ると問題の岩場の上に出ることができる。ところが、いざ取り付いてみるとカンテまであと一手というところにホールドがなく出口も急で行き詰る。小川山のどの入門ルートより簡単なはずだが安易にロープをつけずに登ったのが失敗。下を見ると傾斜はないものの落ちるとどこまで転がるのか検討がつかずクライムダウンしたくともできない。
「(左の)草付きに届かない?」と妻。「(苦手な)トラバースか・・・」深呼吸して気持ちを落ちつける。左手のカチホールド(第一関節だけがかかる)を両手で持ち思い切って左に一歩トラバースする。祈るような気持ちで立ち込むと枯れた草付きに手が届きほっと一息、正に藁をも掴むという感じの登りだった(かなり誇張しています)
kniferidgeは右の岩場を避けて大スラブでセミ状態 monchanが登ったスラブ状の岩、後続パーティーはロープを出した
妻をビレーしようと問題の岩場の上まで駆け上がると、一足遅く妻はすでに取り付いていた(私が落ちると思って慌てて登りはじめたとのこと)。「お助けロープいる?」「大丈夫登れる」と妻。件の岩場は一段上がって右寄りに登れば傾斜も緩みクラックもあって然程難しくなかったそうだ。一連の行動を見ていた3人パーティーは迷わずロープを出していた。
上から観察してみると眼下に右(北)から巻いて上に出る踏跡らしきものがあり最近は先の古い鎖場を通らないのかもしれない(?)。
岩場の上からは岩塔(御前ヶ遊窟)基部の潅木帯へ踏跡が続いていた(潅木の中を左にトラバース)。
しばらく歩くと再び踏跡が途絶えた。正面は4m・W級くらいはありそうな完全な垂直壁、ビレーすれば登れそうだがこれがルートであるはずがない。辺りを見回すと一段下にテープが見え踏跡が見つかり一安心。 
この後は比較的明瞭な踏跡となりソウケイ新道との分岐(道標が下に落ちていた)を過ぎると御前ヶ遊窟(岩穴)はすぐ、色づいたカエデの先に二つの岩穴があり奥の方には小さな仏像が祀ってあった。しばし休憩、記念写真を撮る。
ソウケイ新道(下山路)との分岐
御前ヶ遊窟の頭(岩搭頂上)へ
 上のスラブは登らず左上する踏跡(草つき)に入る
草つきが切れて大スラブが現れる
御前ヶ遊窟(岩塔)の頂上へは岩穴のある所から時計回りに巻き登って15分くらいの行程。
まず、穴を出て右手の潅木の中の踏跡を左上する。大スラブが現れ戸惑うがその縁を15mほど登って(所々手がかりの潅木あり)上の潅木帯を抜けると頂稜に至る尾根に出た。
通常はこの大スラブは登らない
 大スラブ手前の縁に沿って上の潅木帯を目指す
右手に目指す御前ヶ遊窟の頭が見える 
尾根上には左右に踏跡があり、左は井戸小屋山へ行けるようだ。
樹林に覆われた尾根道を右に進むとすぐV級くらいの岩場が現れこの上が頂上だった(岩場を避けて左から巻き登る踏跡がある)。
頂上へは岩場を避けて左から巻き登る踏跡があった。 ソウケイ尾根方面
三方が切れ落ちた頂上は南北に細長く南側にはなぜかRCCボルトが1本だけ打ってあり、岩穴がある方向には真っ赤に紅葉した楓の木があった。
北側はツルっとした狭い岩場で記念写真を撮るにはよいが手がかりとなる潅木もなく高度感があって怖い。こちら側からは前方右手に見えるソウケイ尾根が延びているが切れ落ちていてとても下の様子を覗く気になれない(ビレーしないと危険)。
頂上からは五色に彩られた大スラブ(ソウケイ尾根の側壁やシジミ沢)が素晴らしかった。展望を楽しんでいると3人パーティーが尾根を目指して登ってくるのが見える。もう少しゆっくりしたかったが狭い頂上に5人は厳しいので下りることにした。
 4.下山(ソウケイ新道)  
下山路のソウケイ尾根へは、御前ヶ遊窟(岩穴)下の分岐(以下「分岐」)まで往路を下降する。前述のとおり頂上から直接取り付くことができないからだ。 
分岐から右上して岩塔基部に出る踏跡は、不明瞭な所もあるものの、要所に鎖やペンキ表示があり、往路のシジミ沢よりは分かりやすい。 
途中スラブのトラバースがあったがよく見るとホールド・スタンスは十分にありほんの数mなのでロープは出さなかった。さらに潅木・草付き混じりの岩場をトラバースして少し登るとソウケイ尾根に出た。
ソウケイ尾根は歩いた印象が表妙義辺り(西上州)とよく似た雰囲気。
上部は所々潅木があるものの右側が切れ落ちた(下は鍬ノ沢左岸側の大スラブ)痩せた岩稜で高度感がある。
尾根が屈曲する中間部からは樹林の中を立ち木につかまりながらの急下降となり、スリップしやすいので木の枝を拾ってストック代わりにして歩いた。 
立ち木のない岩場やザレ場には必ず鎖がつけられており助かる。長い鎖場は然程傾斜がなく、むしろ下の短い鎖場の方が手ごわかった(タツミ沢出合近くの2箇所)。ほんの3m程だが垂直でスタンスがほとんどなかったり苔むしていたりで滑りやすかった。
 なお、鎖場は流石に懸垂下降まではしなかったが、せっかくハーネスをつけていたのでプルージックでバックアップを取って下りた(ロックしたりして時間は食ったが)。
御前ヶ遊窟側の岩搭を振り返る ソウケイ尾根上部 5番目(最長)の鎖場 タツミ沢出合
タツミ沢を飛び石伝いに渡って少し登り返し、鍬ノ沢の左岸沿いの踏跡を辿る(テープはあるが一般道にしては分かり難い)。短いが藪漕ぎとなるところがあった。
鍬ノ沢を渡って右岸からシジミ沢コースとの合流点への登りもテープを目印に踏跡を辿るもので少し分かり難かった。
タツミ沢を渡る 短い藪漕ぎあり(鍬ノ沢左岸) 鍬ノ沢を右岸へ渡る
合流点からは往路を下る。鍬ノ沢左岸へ渡り返した後の登山口への急登は午後になってもぬかるんでおり、靴の中まで濡れてしまった(沢では濡れずにすんだのに)。
登山口(林道終点)に戻ってみると3人パーティーの車のほか2台駐車してあった。ノートに下山の記帳をして駐車場(林道入口)へ戻る。
ロープを出さなかったので13時には戻れると思っていたがやはりあまかった。
下山後は「赤湯(角神湖青少年旅行村内・日帰り入浴施設)」で汗を流し、道の駅「阿賀の里」で夕食を摂って帰宅。
(感想・反省)
・御前ヶ遊窟は比較的行程が短く紅葉が綺麗という点で評判どおりの山だった。機会があったら同じ季節に再訪してみたい。
・シジミ沢コースはルートとルート以外の境界があいまいで、スラブは上部でも一見易しそうに見えるため、私たちクライミング初心者は未経験の人よりかえって危ないのかもしれない。ロープを出す・出さないの判断を的確にできるようにならないとこの手のコースは危険だと思う。
【行程】
 自宅(横浜)(10/30)21:03=第三京浜・環八経由=練馬IC=(関越道・北陸道・磐越道)=阿賀野川SA(10/31)1:05/6:02(車中仮眠)=津川IC6:15=棒目貫(駐車場・登山口)6:42−(シジミ沢コース)−御前ヶ遊窟−(ソウケイ新道)−登山口=>往路帰宅
【山行データ】
※相変わらずの鈍足に加え、今回はデジタル一眼を持っていったため時間は遅めです(標準時間は林道終点から全行程5時間くらい)。
10/31(晴れ・朝方霧):登り:シジミ沢コース/下り:ソウケイ新道
林道入口(棒目貫・駐車場)7:04−林道終点(登山口・注)7:09/15−鍬ノ沢渡渉点7:19−タツミ沢入口(登山道合流点)7:35/37−シジミ沢出合8:47/9:05(一応登攀準備)−スラブ中間部(休憩一回靴履替え)−御前ヶ遊窟10:37/45−岩塔頂上10:58/11:14−御前ヶ遊窟11:26/32−ソウケイ尾根上部(休憩一回靴履替え)−タツミ沢出合13:20−タツミ沢入口13:35−登山口13:54−駐車場14:00
注:駐車スペース(数台)・登山ポスト(中に入山記録ノート)あり
※林道入口の少し手前(車で1〜2分)のワラビ園前に御前ヶ遊窟登山の詳細なルート案内板がある。
 【参考文献】
 ハイグレード・ハイキング[東京周辺]打田^一編(山と渓谷社1995年)
  2万五千分の一地形図:安座(新潟)
 ちょっとバリエーション
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