ウェストン道から奥穂高岳(奥穂南稜)
+奥穂-西穂縦走

2009年8月16日-18日
その1奥穂南稜
その2奥穂-西穂縦走へ
 
 ちょっとバリエーション ウェストンの足跡を訪ねて 
 山の手帳

奥穂高岳南稜(岳沢より)
@扇沢 A南稜左支稜(今回の登路) B滝沢 C南稜ルンゼ(オリジナルルート)
【はじめに】
奥穂高岳南稜は岳沢から奥穂頂稜(南稜の頭)に向かってほぼ真直ぐに突き上げる岩尾根で(剣岳で言えば源次郎尾根に相当)、かのウェストンにより初登された(1912年8月)クラシックルートとして有名です(バリエーション入門ルート)。
前穂北尾根と比べると地味ですが岳沢や前穂方面からはその中間部にあるトリコニー(昔の靴の鋲)と呼ばれる三つの岩峰が目印となって容易に特定できます。
奥穂南稜は、トリコニーの岩場やオリジナルのルンゼルート(トリコニー下で左右に分かれる支稜の間を登る)にはつめに30m程の易しい岩場もあって、初歩のリッジ登攀として以前から気になっていました。ただ、下部の藪がうるさく無雪期はあまり登られないこと(残雪期は人気ルート)、そしてなによりアプローチの雪渓が早い時期から不安定になり取り付きが困難な場合があることが心配の種でした。
昨シーズン雪が多かったことからひょっとすると8月なら雪渓状態も然程悪くないであろうという希望的観測と昨年の八ツ峰6峰Cフェース+上半縦走の経験が生きるのではという期待からトライすることにしました。
 
他方、奥穂−西穂は人気の一般ルートながらなかなか険しい岩稜縦走。逆コースは2度経験がありますが(焼岳−奥穂、西穂−槍)、ずいぶん時間が経ったこともあり(直近でも11年)、また、ある程度の重荷で(クライミングギアに加え体調不良の妻の荷物を一部担いだため20kg超となっていた)今どのくらい歩けるのか試してみたい気持ちもあって当初の予定を変更して下山路に選択した次第です。
」と「陵×」
最近、阿弥陀南稜・北稜、奥穂南稜・北穂東稜、一ノ倉沢烏帽子南稜等をネット検索すると、「」が「」となっている記述をよく見かけます。これらは、一応、急峻な岩稜上にある登攀ルートで、その尾根は角張っているので、」が正しいことは言うまでもありません。
「陵」という誤記は、上掲のようなバリエーション入門・初級ルートに関する記録に集中しており、「屏風岩東稜」等少し難しいルートでは、見かけません。
そもそも、「陵」は、丘陵、天皇陵等、こんもりした丘のような地形に使われるのですが、日常生活で馴染みの深い宅地においては、「陵」の方が「稜」より使用機会が多いようです。このため、宅地ではないのに、例えば、「おくほなんりょう」をワープロソフトで変換したり、ネット検索をしてみると、変換候補として「稜」より「陵」の方が先に出て来てしまい、これが誤字の原因だと思われます。
因みに、山岳地形では、山稜(尾根)、稜線(ピークとピークを繋ぐ尾根)等、「稜」は使いますが、通常「陵」が使用されることはありません。
私は、前述したような初心者ルートでも、いざ行くとなると、結構、緊張するので、検索などで、お墓を連想させる南「陵」などという記述は、何となく不吉で嫌な印象を受けてしまいます。こんなことを書くのは大人げないと思ったのですが、単なる誤字と見過ごせないほど多いので、敢て取り上げてみました。
【山行記録】
1.奥穂高岳南稜
(1)上高地−岳沢(8/16)
自宅を前夜に出発し沢渡大橋駐車場で3時間ほど車中仮眠。シャトルバスの中で朝食を摂り6時半頃上高地に到着した。河童橋から見える穂高連峰は少し霞んでいるもののほぼ全容を現している。岳沢は白く見えるがもちろん雪ではなく雪渓はかなり小さくなっているようだ。夏休みとあって多くの観光客ハイカーが盛んにシャッターを切っていた。
橋を渡り右岸側の遊歩道から左に折れて岳沢道を登る。先週の乾徳山と比べ標高が高いので同じ樹林の登山道でもこちらは涼しくて快適だ。途中に風穴があり(ガイドマップでは「天然クーラー」の記載)一休み、設置されていた温度計は8度を指していた。
左の視界が開けガレ沢(岳沢)の上に奥穂から西穂へと続く岩稜が覗くようになる。
樹林を抜けると流石に日差しが強く暑い、岳沢ヒュッテ(跡地)は直ぐかと期待したがさらに1時間ほど要した。
 一昨年は売店営業があったと聞くが石積みのみのヒュッテ跡にはテントが1張りあるのみ。重太郎新道を下ってきた単独登山者2人に水場のことを尋ねみると、情報は得られなかったものの不要とのことで2Lの水を分けてもらった。
ヒュッテ跡周辺に水がありそうになく、岳沢を渡った先の幕営指定地(重太郎新道方面)へ行ってみる。指定地は登山道を挟んで両側に点在する小平地で岩に「テント場」とペンキ表示があった(せいぜい10張り程度)。ここも雪渓以外水は得られそうにないし日中はアブが多く落ち着けないが、吊尾根方面の各バリエーションルートの観察には良いロケーションである。今日はこのテン場でビバークすることにした。
【水場について】ヒュッテ跡の「青い2つのトイレの手前に水用の太くて黒いホースがひかれていて,流しと蛇口があり」,給水可能だったそうです。この情報は南稜の藪の中でお会いした方から後日教えていただきました。
 扇沢出合付近
(2)南稜取付偵察(8/16)
ツェルトに不要な荷物をデポし偵察に出かける。
テン場から踏み跡を辿って岳沢のゴーロ帯へ下りる。下り口は偵察写真を撮るには良いポイントだった。
岳沢の雪渓からすぐ左に分岐する扇沢、正面には吊尾根最低鞍部からまっすぐ落ち込んでいる滝沢(柱状節理が特徴の2つの大滝を擁しすぐわかる)、その間にあって下部が左右2つの支稜に分かれているのが奥穂南稜で両支稜の間のルンゼを登るようだ。
浮石ばかりで歩きにくいゴーロ帯を少し登ると雪渓の末端となり水が滴り落ちていた。流水はなく水はここから汲むしかなさそうだ。
雪渓は崩壊が進み末端付近はラントクルフトが開いていたのでしばらく右岸側を高巻いて雪渓に下りた(アイゼン着用)。傾斜はないが直ぐ先の扇沢出合にはいたる所にシュルントが開いているのが見える。この辺りは秋にはスノーブリッジになるかもしれない。
恐々シュルントを跨ぎ先へ進む。出合を過ぎると雪渓は少し安定したが流水のある滝沢大滝(下段)近くなると下から水音が聞こえ緊張する。 
雪渓最上部に達する。どこもラントクルフトが開いており、中には先端の厚さが10cm位のものもありとても落ち着ける場所ではなかった。
それでも南稜ルンゼの左端に渡れそうな箇所が見つかりほっとする。ただ、ここも先の岩場が平坦でなく60cmくらいあるため万全を期して補助ロープをつけて下りた。
 雪渓最上部 @今回の登路 A滝沢 Bルンゼ(オリジナルルート)
渡った先はスラブ状の岩場でその上は(そこだけ見ると)草付きルンゼに見える。踏跡もあったので不覚にもこれを登路と思い込んでしまった。
なお、正規ルートのルンゼはスラブを右へ10mほどトラバースしたところで一段上がった先の小滝を登るようだ。
少し離れた位置からよく観察していれば特定を誤ることなどありえないのだが(近づき過ぎると分かりにくい)。やはり事前の研究不足と渡れたことで安心してしまいルートの確認を怠ってしまったのが今回の失敗(後述のとおりルンゼルートを登れなかった)の原因。これを書いている自分が情けなくなる。
 
往路をテン場へ戻る(途中で給水した)。
往きも少し遠くでドンという音がしていたが、何であるか帰路で判明した。それは扇沢出合にさしかかったところで、先を歩いている妻の右側の雪面が件の音と共に陥没したからだ。シュルントが開くまでには至らなかったが、雪渓の崩壊が急速に進んでいるようだった
 
B付近 @付近 Bのルンゼ
8/17南稜から奥穂高岳
(3)岳沢−南稜取付−トリコニー基部
今回も寝具はシュラフカバー+アルミ蒸着袋、朝方ちょっと寒く早く目が覚めたわりに準備にもたついて出発は5時過ぎとなった。ただあの雪渓を歩くとなるとヘッデン歩行は不安、明るくなってかえってよかったのかもしれない。
昨日と同じところでアイゼンを履いて雪渓へ下りる。油断はできないが南稜取付まで200mもなく雪も硬そうなので内心は朝なら大丈夫と高をくくっていた。ところが、またしても扇沢出合でドンという音がして直ぐ前にシュルントが開いてびっくり仰天、まさに危機一髪であった。 
程なく昨日確認したランディングポイントへ到着、一応補助ロープでアンザイレンして岩場へ慎重に下りる。 
下りた岩場から続く踏跡を辿って一段上に登ると単独の登山者が雪渓を登って来るのが見えた。 
すぐに猛烈な藪に覆われた岩場の急登となり木登り藪こぎの連続、ほとんど視界がなく現在位置はおろか地形すらさっぱり分からない。ただ、最近の山行記録をみるとルンゼ下部は薮がうるさいとの記述が多く、この段階ではルートミスに気がつかなかった。 
30分ほど登るとようやく傾斜が緩み頭上が開ける(便宜上草付き台地と呼ぶ)。 
振り返ると沢型地形ではあるがこれはルンゼではなくその左の尾根(南稜下部の左支稜)に向かって登ってきたようだ。行く手にはトリコニーもその先端が覗いており今更この薮を引き返す気にはなれなかった。なお、扇沢側(左)に一際目を引く岩峰が見えた(後日コブの頭(コブ尾根の核心)と判明。左画像)。
草付き台地からやや右上するとさらに急な薮岩のミックス斜面となる。時折数mの急な岩壁が現れ行く手を阻まれるも草つきホールドや木登りで強引に突破(非常に疲れる)。
この登りで先刻見えた単独登山者が追いついてきた。我々より少し年長に見えるこの人はコブ尾根の予定を変更して(雪渓状態が悪く取付けなかった)南稜に転進して来たとのこと。尾根末端(扇沢出合)から取付いて追いついただけあって薮こぎに慣れている様子。ルート経験者らしいのでしばらくは同行させてもらったが妻にはハイペースですぐにへばってしまった。 
さらに2時間以上潅木帯を泳ぐようにして次に薮を抜けたところはルンゼルート最上部(ツメ)にあたるスラブ状岩壁(30m凹角がある)の上だった。
前述の人の話では凹角取付に出られるはずだったのに・・・・・・。いえいえ、単にわれわれが勘違いしただけ(対象の凹角が異なる)。 
ここからV+4m程のスラブ(有効な中間支点が取れそうになく登山靴のままフリーで登った。これが唯一のクライミング?)から急な草付き斜面を登るとトリコニーT峰の基部に出た(左画像)。
 
(4)トリコニー基部−南稜の頭−奥穂高岳−穂高岳山荘
T峰に登るには右(滝沢側)へトラバースすべきだが、かすかな踏跡が左(扇沢側)に続いておりこちらの方が楽そうに見える。また、妻がバテていることもあり、これからT峰にロープを出して登ってもさらに時間を食いそう。せっかく登攀具を担いできたがクライミングは断念して左から岩とハイマツのミックス斜面を登ることにした。
 
 
この斜面は50度はあろうかという急なものでトリコニーのT峰とU峰の鞍部へ到る。手がかりは自由に取れるから転滑落の心配はないが、傾斜が半端でないのとスタンスが滑るので意外に時間も労力も要した。残雪期は手ごろな雪壁登攀の対象として登られているらしく時折岩角にスリングもかかっていた(←画像)。
コル着いてみると、ゴジラの背のようなT峰が素晴らしく、その背後の前穂高岳・明神岳の展望にも良いロケーションだった。ただ、気温が高いせいかアブが多く、妻を待っている間にもその波状攻撃には閉口した。 
コルからひと登りでU峰に立つ。こちらは奥穂の前衛峰群(コブ尾根・ロバの耳等)の展望が良かった。
すぐ左のV峰はトリコニーの中では一番立派な岩峰に見えたがU峰とは直接尾根続きではなくパス(V峰はU峰の上で分岐する左の支稜上にある)。
 
←画像:トリコニーT峰U峰のコルへ登る。背後はT峰 
 
 この先は表示や鎖はないが一般ルートと大差ない岩稜歩き。2・3の小岩峰を越えその先がナイフリッジ状となるが然程問題なかった。ただ南稜の頭は意外に遠い。
トリコニーを振り返る。左からT峰U峰V峰
 
痩せた岩稜は3010m峰の次の岩峰からキレット状となっている。忠実に稜線を辿るには懸垂下降となるため鞍部まで引き返す。左にクライムダウンしこれを巻き登って尾根に戻った。奥穂とその西穂側の前衛峰群が間近に見えすごい迫力。
ここまで来ると南稜の頭は指呼の距離だが暑いのと疲れのせいで既に牛歩状態(すぐ近くの吊尾根一般道を歩くハイカーよりはるかに遅い)のためずいぶん時間がかかった。 
トリコニーを過ぎても、南稜の頭までは意外に遠い
 上部に行くにつれ痩せ尾根になる
ナイフリッジは途中からクライムダウン
南稜の頭で妻を待って奥穂へ向かう。頂上には小屋からの往復や西穂からの縦走者等10人以上のハイカーがいた。クライミングの井出達は我々の二人だけで他からは奇異に写っているようだった。
当初岳沢まで戻るつもりでいたが妻のバテ方が尋常でないので穂高岳山荘泊まりに変更する(西穂経由で下山すれば少しは気が晴れるという思惑もあった)。ガチャ類はほとんど身につけ妻の荷物をできる限り詰め込んで白出のコルまで下りる。


南稜の頭(もうへろへろ)
【山行データ】
※17日は慣れぬ藪こぎで消耗し18日は妻の体調不良で時間はかなり遅めです(特に17日はルンゼルートの標準時間の2倍くらい)。
8/16(日)晴れ
上高地6:35−岳沢道登山口6:55−風穴(天然クーラー)7:36/41−岳沢ヒュッテ跡9:02/07−テント場(ビバーク)9:12

8/17(月)晴れ
テント場5:15−雪渓取付(注1)5:22/32−南稜取付(注2)5:50/6:00−(南稜下部の左支稜・注3)−トリコニー1峰基部9:03−トリコニー1峰2峰のコル10:35/50−3010m峰12:44(注4)−南稜の頭13:20/33−奥穂高岳13:45/14:03−穂高岳山荘14:35

注1:雪渓は最上部で25度位だが,ラントクルフト・シュルントが多数あり不安定(特に扇沢出合付近)。安全のため補助ロープを出しアイゼンを装着した。
注2:現状では60cmほど下の岩場に降りることができるが近日中に渡れなくなりそう。ここは南稜末端の左支稜からの浅いルンゼあたり、これを正規ルートのルンゼと勘違いして登ってしまった。正規ルートへは浮石のあるルンゼを右へトラバースし3mほどの小滝を登る。
注3:トリコニー基部まで大半が背丈を超える藪の急斜面、かなり厳しい藪こぎとなる。取付から一応踏跡らしきものが断続的にあるがテープ等全くなく無雪期に登られることは稀のよう。
注4:この辺りはナイフリッジとなっている。次ぎの小岩峰の先がキレットとなり通過は懸垂下降となるため、両岩峰の鞍部付近から左へクライムダウンしてこれを迂回し再び尾根に戻った。
奥穂南稜再挑戦2010年9月
【参考文献】
奥穂高岳南稜
日本登山大系7槍ヶ岳・穂高岳(白水社)
※上記のほか多数の無雪期のweb情報を参考にさせていただきました。ありがとうございました。
その2奥穂-西穂縦走へ
 ちょっとバリエーション ウェストンの足跡を訪ねて 
 山の手帳


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