剱岳北方稜線
   2006.8

剱岳東面(2000年GW冷池より)
ちょっとバリエーション

久しぶりに妻と二人で山(北方稜線:本峰→池の平)に行ってまいりました。

山行の前後で別山平の富山県警山岳警備隊の方・真砂沢ロッジの前の管理人さん・池の平小屋の管理を手伝っているボランティアの方に、ルートについて伺いました。初めて北方稜線に行かれる方には参考になると思いますので、私たちの山行報告(破線以下にあります)の前に、ルート情報として記載しておきます。

一.ルート情報(+アドバイス)
1.適期
北方稜線の適期は「秋」(ピッケル・アイゼン不要、ルートがわかりやすい)。
2.縦走の方向
「特に初めての場合には」池の平→本峰(上り方向の縦走)が推奨。ルートファインディングが相対的に容易、危険箇所が登りになって安全だから。
3.装備
通常の装備に加え、ピッケル・アイゼン(秋は不要なことが多い)・ザイル・ビバーク装備等山岳警備隊の人によると上記を持った上で「10kgを大きく下回る」ように軽量化し短時間で縦走すると成功率が高いとのことでした。
→アドバイスに従いテント・炊飯用具・食料の一部をテン場(別山平)にデポして出かけたものの、過剰な登攀具を持参したため二人とも1215kgくらいはあったようです。
4.「下り方向縦走」の危険箇所・迷いやすいところ等(警備隊のアドバイス)
(1)池の谷尾根の頭の下降(危険:過去に転落死亡事故あり)
「長次郎の頭を巻くところ」で確保が必要と感じた場合は、その後池ノ谷乗越までザイルが必要になるとのこと。
(2)小窓の王南壁基部のバンド(迷)
「ガスで視界がないとき」に取付きを見過ごし池ノ谷左股を下りた例あり。また、三ノ窓や池ノ谷ガリーからはこのバンドが非常に急峻に見えるため、ここにルートあると思えず三ノ窓雪渓を下降し滑落事故となったことがある。
(3)小窓尾根山腹トラバースルート(迷)
尾根からのトラバースルートへの取付(下降地点)を見落とし稜線通し(ルート不明瞭)に歩いてしまう。山腹下降後(100mくらい)トラバース開始地点(左に折れる)を見落とし下降しすぎて行き詰る。
トラバースルート上に残る2箇所の雪渓の通過(危険)。手前側は滝のすぐ上にあたり、滑落死亡事故あり。
(4)小窓雪渓から池の平への登山道への取付(迷)
左岸に上がる取付は、右岸の立派な滝が見えたらすぐのところ(小窓から雪渓を300m程下ったところ)。見落として下りすぎることが多い(二股付近からはクレバスあるので注意)。
※コース全般に共通して、晴れていても午後になるとガスが出ることが多く、ルートファインディングが難しくなるので、早めの出発が望ましい(できれば4時ころまでに)。

二.山行報告
【はじめに】
剱岳北方稜線(狭義)はこの山域でかねてより気になっていたルートのひとつ。行程の長い山は久しぶりだったので体力面が特に心配でしたが、無事に縦走を終えることができ本当に幸運だったと思います。
アタック日(8/21)は未明から起きて準備していたものの、出発間際より生憎の雷雨、半ば諦めて収まるのを待っていたら7時になってしまいました。当初は、偵察(本峰経由で池ノ谷尾根の頭まで)のつもりが、天気が回復し視界がよくなったので最悪ビバーク覚悟で強行しました。
小窓までは順調でしたが、「北方稜線ってこんなものなの?」なんて生意気なことを言ったとたん山の神様のお怒りにふれたらしく、小窓雪渓ではガスで視界が利かなくなりました(雪渓にガスがでる時間帯に通過したから)。山岳警備隊の方から池の平方面の登山道の取付きの位置について情報を得ていたものの、なかなか見つけられず池の平小屋に着く頃にはヘッデンが必要な時間になってしまいました(取付を見つけるのに1時間半くらいロスした)。
池の平小屋では、真砂沢ロッジの前の管理人さん兄弟や池の平小屋お馴染みの皆さん(8/22に北方稜線を登り方向で縦走)とご一緒させていただき、楽しいひと時を過ごさせていただきました。山中で風呂に入れるのは本当に有難いし、食事は質(種類)・量とも最高レベルだと思いました。 

【日程・行程・コースタイム・天候等】
8/20
(曇り時々晴れ)
室堂9:55−雷鳥沢10:30/35−別山乗越12:15/25-別山平12:55(幕営)

8/21
(曇り時々雨→曇り時々晴れ)
別山平7:00−剱岳本峰10:12/25−長次郎のコル10:45/11:00−池ノ谷尾根の頭12:02/05−池ノ谷乗越12:30/37−三ノ窓13:15/23−小窓ノ王西壁直下(南壁バンドを登りきった所)13:40/45−小窓尾根小窓側山腹(トラバースルート)の小雪渓a14:15(注1)−同小雪渓b 14:30(注1)−小窓尾根稜線ルートとの合流点14:45−小窓15:20/35(注2)−池の平小屋18:05
※ルートコンディションは悪くなかったのでロープ(30m)等一切使用せず。
(
注1)トラバースルート上の雪渓aはピッケルでカッティングして通過(アイゼン未使用)。雪渓bは上の岩場を容易に巻けた。雪渓abとの間の実際の所要時間は5分ほど。
(注2)小窓雪渓から旧日電鉱山道への取付がなかなか見つからずタイムロス1時間半。

8/22
(曇り時々晴れ午後一時雨)
池の平小屋7:20−北股雪渓取付7:55−二股8:40−二股吊橋9:05−真砂沢10:15/35−長次郎谷出合11:05−平蔵谷出合11:27−別山平12:50/14:00(テント撤収)−別山乗越14:45/55−雷鳥沢15:35−室堂16:20 

【ルートの印象及び山行メモ】
.ルート全体についてルート全般(本峰より先)を通じ踏跡は比較的明確でペンキマークも新旧取り混ぜて多く感じました。特に要所要所に新しいオレンジのマーキングが追加されており大いに助かりました。
→当初は大丈夫かなとも思いましたが、北鎌で経験したときのように危険箇所に導くようなものはありませんでした。

ペンキ表示を全面的にあてにするのはどうかと思いますが、このルートは一般道ではないルート(準バリエーションルート)にしては「表示が多い」ということを知っていれば、ルートミスにした際にその事を認識しやすいのではないかと思います。小窓までは下り方向でも然程分かりにくいとは感じませんでした。ただ、ルートファインディングの難易は、このルートの場合特に、視界が利くか否か(ガスの有無)で大きく左右されると思います。
基本的には岩稜歩き。ルート上では特にクライミング技術が必須というわけではありませんが、外すとすぐ困難な岩場が出てきて危険なので、初歩の登攀技術くらいは身につけて臨んだほうが無難な気がします。
1.本峰−池ノ谷尾根の頭
「長次郎のコル」までの下りは浮石が多く一抱えもある岩が容易に動くので、ホールドは通常より入念なチェックが必要でした。コルまでの最後の下りは右の明確なルンゼ(困難)ではなく稜線上を忠実に歩きました。 

1 剱岳本峰から
長次郎のコルへ下降
2 本峰からの下降路
長次郎のコルから
3 長次郎の頭基部を巻く所
(アルペンガイド記述ルート)

「長次郎の頭」は長次郎谷側から巻きました。最低鞍部より一段上にある取付から少し右に出て一段下りると正面にルンゼがあります。ここからaルンゼを直登するルートとbさらに右へ進んで長次郎谷側に張り出した外傾した岩をトラバースするルートに分かれます。この時は小雨も降っており、濡れた状態で苦手なトラバースはもちろんパス、ルンゼを直登します。傾斜は緩いしホールド・スタンスも多く問題なく通過、すぐに長次郎の頭の北側直下の稜線に出ました。ルンゼの下の方で右手のスラブ状の岩に冬のものと思われる10mmほどのフィックスロープがかかっていました。ついこちらに引き込まれそうですが、こちらはスタンスが遠く難しそうでした。

4 画像3の手前のルンゼ
こちらを登った
5 ルンゼから見た長次郎谷左俣 6 ルンゼを登り切った所
長次郎の頭の直下

「稜線から池ノ谷尾根の頭」までは、稜上よりむしろ「長次郎谷側」を巻くことが多かったように思います。踏跡は比較的明瞭、要所要所に新しいオレンジのペンキマークがあって助かりました。やや細めのバンドのトラバースが何度もありますが、いずれもごく短いものでした。一箇所岩が張り出したていてバンドが特に細くなっているところがあります(残置ピトンにスリングがかかっている)。1.2歩ですが身体が宙に放り出されるような感じでした。

トラバースが終わると「両側が衝立状の2枚の岩に挟まれた凹地」に出ます(緊急時はテント設営可)。ここから稜線はやや左に折れているので要注意。この凹地は「池ノ谷尾根の頭」の直下にあたり、左の傾斜の緩い岩を登ります。少し前からガスが出て視界が悪くなっており、方向を見失った私たちは反対(右)の急な岩に取り付いてしまいました。すぐに急峻な尾根の下降(踏跡なし)となって行き詰ったものの、凹地まで戻って方向を確かめ事なきを得ました。よく見ると左の岩には上部にオレンジのペンキマークもあり、視界がよければ間違えるはずもないのですが・・・。条件次第でルートファインディングの難易度が大きく変わることを実感しました。

7 長次郎谷側の様子
1熊の岩
2長次郎谷左俣
3源次郎尾根
4八ツ峰
8 池ノ谷乗越までは
概ね長次郎谷側を歩く
9 池ノ谷の頭直下の幕営適地
左側の緩い岩場を登る
↑11池ノ谷の頭
ガスっていて展望なし
←10 池ノ谷の頭へ
12 池ノ谷乗越への下降→
「池ノ谷尾根の頭」は本来素晴らしい展望地らしいのですが、この時はガスで全く見えず。ここで偵察を終えるか迷ったものの池ノ谷乗越への踏跡はすぐわかったので、核心のコルまでの下降ルートを確かめておくことにします。
2.池ノ谷乗越−三ノ窓


↑14 長次郎谷右俣側
←13 池ノ谷ガリー側

「池ノ谷乗越への下降路」は赤茶けた岩と土が混じった崖状の急斜面がしばらく続き、コルの直上はさらに急な岩場(6〜7m位?)となっていました。どこを下りるか戸惑ったものの、懸垂下降するような斜面ではないことは確か、私たちは今まで辿った踏跡の延長上にある浅いルンゼを下りましたが、ホールド・スタンスは十分にあり、途中にはレッジ(小テラス)もあって不安なくコルに立つことができました(下りた立ったところに赤ペンキのマークあり)。

「池ノ谷乗越」で行動食を摂っていると、急に空が明るくなり正面に堂々たる岩峰(「小窓の王」)が見え始めました。南壁基部から肩へ上がる急峻なバンドも手に取るようです。他の方のコースタイムと比較しても然程遜色なく、16時には小窓に着けそう。少し迷いましたが三ノ窓ビバークも視野に入れて先に進むことにしました。

池ノ谷乗越から三ノ窓へはガレ場の滑り台のような「池ノ谷ガリー」を下ります。上の方は比較的踏跡(右側を下降)もしっかりしていますが、中間部の大岩のあたりから不安定になり落石を起こさずに下るのは一苦労でした。
「三ノ窓」はチンネ・ジャンダルムと小窓の王の間にあるコルで東は三ノ窓雪渓、西は池ノ谷左俣となっています。テントが数張のスペースがあり到着したときもクライマー2パーティーのテントがありました。重荷のため池の平から7時間かかったそうです。ここは山岳写真を撮る人にも絶好のベースになりそうです。
ゆっくりしたいところでしたがまたガスが出始めたので、2.3人が横になれるという岩小舎(ビバーク適地)だけ確認して三ノ窓を後にしました。

15 ルート概要
池ノ谷ガリー下降−三ノ窓−小窓ノ王バンド登り
16 池ノ谷ガリー下降 17 ガリーから三ノ窓へ

3.小窓ノ王−小窓尾根山腹トラバース
「小窓ノ王南壁基部のバンド」の登り。池ノ谷ガリーの下降中や三ノ窓から見たときは確かにとても急峻で登れるか不安になりますが、いざ取付いてみると幅も広く、よく踏まれていて一般登山道とあまり変わらない感じ。冬のものと思われるフィックスロープ等がありますが、ここに来るレベルの人なら少なくとも登りでは(下り方向の縦走)これに頼ることはないと思います。
バンドを登りきった小窓ノ王の肩(西壁直下)では再びガスが切れてしばし写真撮影。行く手には眼下の小窓を挟んで池の平山、振り返るとジャンダルム・チンネ・三ノ窓の頭、池ノ谷ガリー、池ノ谷の頭・・・・・・、素晴らしい。

18 小窓尾根(小窓ノ王下)からの展望 19 三ノ窓
ビバーク適地・岩屋あり
20 小窓ノ王基部のバンド
小窓尾根は展望良好(画像14)

「小窓尾根山腹のトラバースルート」
トラバースルートへは小窓ノ王の肩から少し小窓尾根(やや小窓側)を歩き、ペンキ印のあるところから小窓側山腹(右手)を下ります。100mほど下りたあたりから踏跡は左に折れ山腹をトラバースするようなります(トラバース開始地点にもペンキ表示あり)。このトラバースルートには途中に「2つの小雪渓(下り方向の縦走で手前を雪渓a先の方を雪渓bと呼ぶことにします)」があります。北方稜線にピッケル・アイゼンが必要な理由はこの二つの急な雪渓のトラバースのためといっても過言ではありません(小窓雪渓は傾斜がゆるく我々のように迷ったりしない限りアイゼンは使用しない人が多い)。
雪渓aは最大斜度40度位、ただ、幅は既に56mになっており、雪の状態からもアイゼンなしでいけそう。そこで、警備隊の人から勧められとおりピッケルでカッティングして渡りました。ただ、ここはすぐ下が滝になっており、過去に滑落死事故もあった危険箇所なので、怖いと感じたら迷わずアイゼンを履く・ロープ確保(手前の岩に残置あり)する等適切な措置をとった方がよいと思います。
雪渓bは斜度は30度位、幅はまだ20mほどありましたが、こちらはすぐ上の岩場を容易に巻くことができました。ここは少し長いので渡るならアイゼンをはいた方が無難かもしれません。
雪渓a雪渓bの周辺にはちょっとしたお花畑があり(トリカブト等)、目を楽しませてくれました。
小雪渓を過ぎるとほどなく小窓尾根稜線通しのルートと合流しハイ松に覆われた登山道を下ると小窓でした。

21 小窓尾根は三ノ窓側の山腹を歩く
22 尾根ルートとの分岐
ここから下降(ペンキ表示あり)
23 急な小雪渓が現れる
24 小雪渓aを渡る 25 お花畑
小雪渓aとbの間
26 小雪渓b
上を巻いた

4.小窓−池の平
小窓に着けば(15:20着)あとは楽勝と思って油断したのか、池の平への登山道(旧鉱山道)の取付きを見つけるのに1時間半も要してしまいました。「取付」は小窓雪渓を300mくらい下った辺りの左岸(大きなペンキマークあり)にあります。山岳警備隊の人から「右岸の大きな滝」が見えたらすぐ左岸に上がる(取付)、また、迷う場合はこの滝を見落として下りすぎることが多いと聞いていたので、ずっと右岸を見ながら雪渓を下りました。56分下ったとき滝の音が聞こえてきました、それは右岸の「そこそこ大きな滝」で、私たちはてっきりこれだと思い左岸に上がりました。「取付」の写真のコピーを持参しており、よく見ると周囲の地形が異なっていたのですが、雪がずっと少ない秋の写真だったので、ほとんど気にも留めませんでした。また、左岸には踏跡のようなものがしばらく続いており、違っていてもそのうち登山道に出るだろうくらいに軽く考えていました。

27 池ノ平山と小窓 28 小窓(ビバーク適地) 29 小窓雪渓を下る

ところが、しばらく歩いていた踏跡らしきものは草つき斜面で突然なくなり、流石にまずいと思いました。上がった地点に戻った頃にはすっかりガスってきて小窓の位置すらわからない始末。アイゼンを履いて少し見通しがよくなるのを待って再び小窓雪渓を下り始めました。左岸側にも滝が現れ、これを見送り少し下ると再び右岸側に滝の音がしてきました。右岸側の地形は写真に写っているものと酷似しており今度こそ間違いないと思って左岸に上がります。再び上がったところにも不明瞭な踏跡のようなものがあり、草つきから小高い岩場へと続いていましたが、やはり登山道ではない様子。
岩場の上は見通しがよさそうなので上がってみると、対岸(右岸)に二段の立派な滝が見えます。これに比べれば確かに先ほどのはしょぼい、目印の滝はこれに間違いないと確信しました。さらに前方に目を移すと(左岸側)、100mほど先の眼下に白ペンキの大きな丸が見えます。本当にほっとしました。再び雪渓を下ります。左岸側2つ目の滝を過ぎすぐ目の前が「取付」でした。

30.旧日電鉱山道の取付(ペンキ印あり) 31取付は右岸の滝(2段)より手前
32取付

既に5時近くになっておりヘッデンの準備をして登山道を歩きました。池の平小屋までは「取付」より約1時間、途中フィックスロープがあったり、小屋のすぐ手前には結構急な雪渓(56m)を渡る箇所があったりと想像していたものより難路でした。

(おまけ)
下山日は小屋の人の勧めで北股雪渓を下りました(傾斜緩くアイゼン不要)。二股の少し前からシュルントがいくつも口をあけていますし、1箇所スノーブリッジ上の通過ありましたがしっかりしており通行に支障はありませんでした。ただ、二股の吊橋の手前に「一般登山者通行禁止」の表示があります。雪渓歩きに不慣れな方はやめたほうがよいかもしれません。

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