槍ヶ岳北鎌尾根(貧乏沢より)
2002年9月1日(日)〜4日(水):幕営2泊3日/4日は 車回収(中房温泉)

【日程・行程】2002年9月1日〜3日
9/1:中房温泉-燕山荘−大天井ヒュッテ-貧乏沢下降−北鎌沢出合(幕営)
9/2:北鎌沢出合−北鎌沢右俣−天狗の腰掛(P9)−(トラバースルート)
   −独標(P10)−P11P12P13−P14(ビバーク)
9/3:P14−P15−北鎌平−槍ヶ岳−横尾−明神(泊)

 ちょっとバリエーション
山の手帳 
ふたたび北鎌尾根へ(水俣乗越より・独標主稜直登)2010年9月
【山域・山名】 
 北アルプス南部 /槍ヶ岳(3180m)       
【地図・ガイドブック等】 
 2万5000図「槍ヶ岳」
 昭文社エアリアマップ「上高地・槍・穂高」
 アルペンガイド「上高地・槍・穂高」2000年版(山と渓谷社)
 日本登山大系7槍ヶ岳・穂高岳(白水社) 
 Rock&SnowBooksアルパインクライミング(遠藤晴行編、山と渓谷社)
 日本のクラシックルート集(山と渓谷社)
 【メンバー】2名(私+妻)
【山行の概要】
槍ヶ岳の頂上から北東へ派生する北鎌尾根は、水俣川の源流である千丈沢・天上沢を分け独標をはじめ多くの岩峰を連ねた岩尾根。八ツ峰(剱岳)・前穂高岳北尾根とともに北アルプス三大岩稜のひとつに数えられ、特に日本登山史の黎明期においては数々のドラマ、そして悲劇(加藤文太郎・松濤明)の舞台となった。
無雪期のルートは、北鎌沢出合までのアプローチにより湯俣ルート(七倉〜千天出合〜北鎌沢出合),貧乏沢ルート,及び水俣乗越から下降するルート等があるが、無雪期は貧乏沢ルートが一般的である。
           〜アルペンガイド「上高地・槍・穂高」(山と渓谷社)等より

北鎌尾根は、高校生のとき読んだ加藤文太郎をモデルにした「孤高の人(新田次郎著)」でその存在を知ったのですが、昨年登った前穂北尾根と違い昔から強い憧れを抱いていたわけではありません。興味を持ったのはごく最近のこと、何人かの北鎌縦走者から話を聞いたり、99年槍ヶ岳の頂上から見た独標の姿が妙に印象に残ったからでしょうか。

今回は、1日目に貧乏沢ルートからアプローチ(中房温泉より入山、北鎌沢出合で幕営)。2日目は北鎌沢右俣を詰めて稜線に出(北鎌沢のコル)、独標はトラバースルート(途中から一般的でないところを直登)をとり、P14でビバーク(予定ではこの日槍まで抜けるつもりだった)。3日目に槍ヶ岳登頂後槍沢を下山しました(いつになく慎重に下りました)。
計画より時間がかかってしまった事については、独標の通過にてこずった等いくつかの要因はありますが、槍まで1日で抜けるだけの実力がなかったということ。またルートに対する認識があまかったことでしょうか。
特に後者についてはかなりの資料を持っていたにもかかわらず未消化の状態で見切り発車してしまったことが悔やまれます。

このような経緯があったせいか、槍の頂上に立っても、終わってホッとしたというだけで、イマイチ釈然としませんでした(達成感とか感激はなかった)。→そのわりにKniferidgeは一般ルートを登ってきた人に講釈たれていたが(恥ずかしい)。
もっとも、すんなり行かなかったおかげで、稜線でのフォーストビバーク等いろいろな経験ができ今後の山行には役立ちそうです。
【天候、コースタイム】
◇9/1(日)晴れ
中房温泉公共駐車場2:43/6:18−中房温泉6:28−合戦小屋8:30/45−燕山荘9:27/35−大天井ヒュッテ(昼食)12:30/13:05−貧乏沢入口13:23−滝14:38/43−貧乏沢出合15:48/52−北鎌沢出合(幕営地)16:15
◇9/2(月)晴れ
北鎌沢出合4:50−二俣5:03−(右俣)−北鎌沢のコル7:04/08−P8 8:20/25−天狗の腰掛(P9)8:39/45−左俣のコル(登攀具着用)9:04/30−独標のコル9:48/56−独標基部10:03−小尾根の先のテラス(順番待ち・登攀準備)10:28/11:05−(ロープ使用4P・注1)−独標13:12/46−P11 14:20頃−P12 14:45−P13 15:31−P14(ビバーク地)17:05
◇9/3(火)晴れ
P14 7:35−P15の頂稜7:50/58−北鎌平8:14/35?−Berg Heil 8:55/9:10−下のチムニー9:25−(ロープ使用)−中段テラス9:50−(迷う・注2)−上のチムニー11:00−(ロープ使用)−上段テラス11:10/25−槍ヶ岳11:27/12:02−槍岳山荘12:15/13:05−槍沢ロッジ15:13/23−横尾16:28−徳沢17:22−明神(明神館泊)17:58
注1:ガイドブック等に紹介されている一般的なルートではない。2P目はV〜Wで要ロープ
注2:上のチムニーは中段テラスの天上沢側にあり、通常なら下のチムニー終了点から1分とかからない。
【装備等について】
このルートは、稜線に上がるとまったく水の補給が出来ません(夏の早い時期なら左俣の雪渓が利用可らしいが)。水を多めに(2人で7・5L)荷揚げしていたから良かったものの、水切れタイムアウトという事態になっていたらと思うとゾッとします。→水についてはMMLTさんのアドバイスで助かりました。
水は北鎌沢二俣から左俣を2分ほど登ったところ(北鎌沢出合から10分強登った所)に出ており水量は豊富。登路の右俣も標高2000m付近より上で数箇所水を得られる所がありますが、水量はあまり多くありませんでした。

クライミングギアについては、ルートミスをした時のことを考え、過剰とも思える装備(但しロープは9mm45m1本のみ、もう1本あれば装備だけなら岩壁登攀でもできそう)を持参しました。結果的に独標の登りではほとんど使うことになったのですが、逆にあれだけ持って行ったから「ガイドブックのルート」でないと知りながら、一般的でない所(要ロープ)に安易に取り付いてしまったのだと思います(大いに反省)。→深く考えず先行パーティー(クライミングがうまかった)にノコノコついていって途中で青くなった。なお、装備は水・登攀用具以外はなるべく軽量・コンパクト化を図りました(つもり)。
→全装備でKniferidge:17Kg/Monchan:14Kg。二人とも35Lのクライミング用ザックで何とか納めました。幕営用具はドームツエルト(2人用1kg)・シュラフカバー+レスキューシート、食料は3日分(調理不要のものがほとんど)+予備食1日分。しばらく、山に行っておらず、4月で山岳保険が切れていたのですが、北鎌に行くということであわてて加入しました。保険に入っていれば万全というわけではありませんが、万が一の時、なるべく周囲の人に迷惑をかけないようするための最低限のマナーだと最近は考えています。もちろん、これだけで自己責任が果たせるものではありませんが。番大事なのはひょっとすると「引き返す勇気」なのかも、たとえ独標の手前であってもあの貧乏沢を登り返すことを考えるとなかなか決断できないような気がします。
【ルートの印象】
日頃ろくにトレーニングをしていないクライミング初心者の私たちにとって、自分たちで行くには体力・技術・経験全ての面で予想以上に厳しいルートでした。
技術面の難しさは登攀技術より岩稜におけるルートファインディングにウェイトがあると感じました。ただ、これは、本ちゃんやマルチピッチのゲレンデにおけるクライミングを経験しないと、なかなか身につかないもののような気がします。→一般ルートではたとえ岩場のグレードが同じで鎖等を利用しないとしても、表示や鎖等がルートの確実な目印となるためそのプレッシャーは全く異なります。体力面では毎日実働で10時間位の歩行に耐えられることが必要。

1ルート・ファインディングとても重要!!
アプローチの貧乏沢の下降を含め、やはりバリエーションルートだなと思いました。油断するとすぐルートミスをするし、それが時として進退窮まる事態に直結しうるからです。確かに、人気ルートなので踏跡は比較的明確ですし、所々赤テープが巻かれた小石もありますが、これはすぐ動いたり、なくなったりするものだし、全面的にあてにできる性質のものではありません。また、ルートが不明瞭な所、誤った踏跡や通過可能な複数ルートの存在と経験の乏しい私たちの頭を悩ませる箇所は随所にありました。もっとも、こういうところを自分で判断しながら歩くのがバリエーションルートの醍醐味なのでしょうが・・・・。


2クライミング技術→必要です!!
アルペンガイド等からは、独標をトラバースルートにより通過する限り、黙示的にロープ不要と解されます(前穂北尾根のようにロープ使用を明記していない)。それで、私たちは早とちりして、短絡的に「北鎌って無雪期なら簡単なんだ」、さらには「ロープ不要≒クライミング経験なしでも行ける」と解釈していました。
→ちょっとクライミングをかじっただけなのに「体力的にはつらそうだけど技術的には問題なさそう」などと高をくくり、結果は前述のとおり。
実際に歩いてみて、独標トラバースルートは途中から変なところを登ってしまったのでよくわかりませんが、独標から北鎌平の岩稜の通過も結構気が抜けないし、大槍のチムニーも重荷を背負ってとなると確保なしで登るのはちょっと怖そう。このルートを安全に歩くためにはクライミングの技術・経験は不可欠だと思いました。
そこで今では、北鎌においては「ロープ(ザイル)が必要と明記されていない」あるいは「ロープを使わなくても済む」等の真意は、「クライミング経験・技術が一定レベル以上の人ならロープを使わなくても大丈夫」という意味であって、多少岩稜歩きの経験があるからといってクライミング未経験者・初心者が確保なしで登れるという意味ではないと思うようになりました。→そんなの当たり前じゃないかと言われそうですが、トンチンカンな私は本当に後者ように解釈していていました。

西穂〜奥穂(当時クライミング未経験)を歩いたノリで、このルートに挑戦していたらどうなってたんだろう?仮に行けたにしても綱渡り状態だったような気がします。
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