源次郎尾根から剱岳(北アルプス)
2001年8月18日〜20日
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剱岳東面(2000年GW冷池より)

【はじめに】
 源次郎尾根は南東から真っ直ぐ剱岳本峰へ突き上げる岩尾根(標高差約1000m)で途中には2つの顕著なピーク(T峰2709mU峰2770m)があります。
剣沢方面からは美しいスカイラインを引く背後の八ツ峰の方に目を奪われてあまり目立たない存在ですが、その縦走路は私達にとっては貴重なバリエーション入門ルート(初歩のクライミング技術要)であるとともに、T峰U峰の平蔵谷側壁には剱岳東面を代表する岩壁登攀ルートを擁しています。

 久々の山行だったので私は初日の剣沢のテン場へ行くのにもバテ気味、正直いって少し不安を感じました。こういう予感は当たるもの、登頂日は足はつるし脱水症状にもなってバテバテ。最近では記憶がないくらい辛い山行となってしまいました。
なんと行動時間(休憩込み)は13時間以上(剣沢ベース)。→標準コースタイム8時間位もっとも私達の実力・体調を考えると計画自体に無理があったのですが・・・。
 当初の計画は
18日室堂〜別山平(剣沢・幕営)
19日別山平〜源次郎尾根〜剱岳〜長次郎谷左俣〜熊ノ岩(幕営)
20日熊ノ岩〜八ツ峰Y峰Cフェース(岩壁登攀入門)登攀〜八ツ峰上半分縦走(→実現できたのは2008年9月)〜池ノ谷乗越〜長次郎谷右俣〜真砂沢(幕営)
21日真砂沢〜黒四ダム
(実績)
18日室堂〜別山平(幕営)
19日別山平〜平蔵谷出合〜源次郎尾根ルンゼコース〜剱岳〜別山尾根〜別山平(幕営)
20日別山平〜室堂

※このルートは易しいとはいえバリエーションルートです。一般ルートのように整備された登山道はなく(鎖・梯子・表示は一切ない)、急峻な岩場の連続するコースです。特に、源次郎尾根の場合U峰から懸垂下降(30m)となり、クライミングの装備とそれを使いこなせるだけの技術と経験が必要です。なお、私が使う「入門者」「初心者」というのはクライミングの入門者(技術を習い始めたばかりの人)・初心者(経験が浅い人)の意味であって、世間一般でいう山登り(山歩き)の入門者・初心者を指しているのではありません。この記録を参考にされる場合は十分この点に留意してください。また、自分で行けるかどうか判断できないうちは、まず行けないと思って間違いないです。
私たちレベルの初心者の方が初めて剱岳のバリエーション入門ルートに挑戦される場合は、@長次郎谷左俣→A北方稜線(本峰〜小窓)→B源次郎尾根主稜→C八ツ峰主稜とステップアップすると安全だし山行から得るものが多いような気がします(ビバーク覚悟なら@Aのセットも面白い)。

【山行日】2001年8月18日〜20日
【山域・山名】
北アルプス北部/剱岳源次郎尾根T峰(2709m)U峰(2770m)本峰(2999m)
【参考文献】
2万5000図「剱岳」「十字峡」
昭文社エアリアマップ「剱・立山」
アルペンガイド「立山・剱・白馬」2000年版(山と渓谷社)
立山・剱岳を歩く(鈴木正己・内田修・山と渓谷社)日本アルプス特選100コース(山と渓谷社・絶版)
【メンバー】夫婦2人

【天候・コースタイム】
8/18(土)晴れ
自宅(横浜)10:20=車=扇沢バスターミナル15:52/16:00(室堂行き最終)=アルペンルート=室堂17:30/35−雷鳥沢18:04−別山乗越19:37−別山平20:03(幕営)

8/19(日)晴れ時々曇り
別山平4:50−(剣沢雪渓)−平蔵谷出合5:35−源次郎尾根取付5:48/6:20(登攀準備)−最初のCS上6:50/7:10(荷揚げ等・注1)−滑滝下7:32−(右岸の草付から高巻き・ロープ使用50m*2ピッチ)−滑滝上8:40−T峰の肩9:45−T峰11:10/40−U峰12:22−U峰懸垂下降地点12:35−U峰のコル(懸垂終了点・注2)13:08/20−剱岳14:30/50−剣山荘17:20/50−別山平18:12(幕営)
注1:源次郎尾根はT峰の下で左右2つの支稜に分かれており、無雪期は左支稜を登るのが一般的。今回は両支稜の間のルンゼを登った。このコースは尾根より登攀要素が強く下のチョックストーン(CS)から涸れた滑滝(10m)の上までロープ使用
注2:U峰の懸垂(30m)は50mロープダブルで下降した。50m1本の場合は中間テラス(上から20〜25m・懸垂支点あり)でピッチを切って懸垂2回で下りられる。

8/20(月)晴れ
別山平13:00−別山乗越13:37/42−雷鳥沢14:22/26−室堂15:03/?=アルペンルート=扇沢17:05=大町温泉郷(入浴・食事)===>深夜帰宅

【山行メモ】

・源次郎尾根から剱岳に登った。ガイドブックによると岩登り入門ルートとのことだが、同じ入門ルートでも昨年秋の北穂東稜より体力面は当然だが技術的にも1ランク上の印象。
・剣沢からは剣沢雪渓を平蔵谷出合まで下るが、剣沢は雪渓がかなり後退し武蔵谷出合より下から雪渓を歩く。
*平蔵谷出合手前が少し急で早朝はカチカチに凍っているのでストックと軽アイゼン(又はピッケル)はあった方が良い。

・源次郎尾根はT峰より下が2本の支尾根に分かれておりT峰の肩までは
a左の支稜どおしに登るルートと
bそのすぐ横のルンゼを登るルートとがあるが,今回はbを登った。

*肩に出るまでは先行者がいる場合ルンゼルートは落石の危険大。富山県警山岳警備隊は落石の心配のない支稜どおしのルート( U峰の下降以外ロープ不要)を勧めている。

@平蔵谷 A剣沢雪渓 B源次郎尾根左支稜(尾根ルート) C源次郎尾根ルンゼルート
(1)T峰肩下のルンゼルート

ルンゼ下部

ルンゼ下部a

《涸れたCS滝》
・平蔵谷出合から踏跡に従って源次郎尾根支尾根末端を越え(15分)ルンゼ(取付)に出る。
・取付のすぐ上に2つの涸れたチョックストーン滝(各4〜5m)がある。 最初の涸れたチョックストーン滝(5m)は荷物が邪魔で苦労した。→画像ルンゼ下部a
情けないことに空身しかもクライミングシューズを履いてやっと通過(準備込みで1時間近くかかった、残置が悪くフレンズ(#3)使用)。


ルンゼ下部b

ルンゼ下部c(右岸側の高巻き)

《約10mの滑滝》
・2つのCS滝(→画像ルンゼ下部b)を過ぎるとすぐに10mほどの滑滝(傾斜50〜60度→画像ルンゼ下部c)が現れる。残置もなく遠見には難しそうに見えたので左の草つきを登って巻いた(右岸側の高巻)。
→草付も傾斜40〜50度位の部分があり浮石が多く意外に登り難い(ロープ 使用50m*2P)。もう1度行く機会があったら今度は直登したいものだ。


ルンゼ下部C(直登するとW位でここが核心になる)

ルンゼ下部c

ルンゼ上部

ルンゼ上部

ルンゼ上部(左にトラバースして草つきを登る)

尾根ルートとの合流点付近

《ルンゼ〜草付〜T峰肩》
・再びルンゼに戻り急なガレ場や続く草付を登るとT峰から派生する支稜に出た。


T峰へ向かう


前剣(左)と剣岳本峰
 
(2)T峰肩(支稜)〜T峰〜U峰
・全体的に急な岩稜歩き。
T・U峰付近は左右いずれか一方が切れ落ちている所が多く気が抜けない。
→クライミングシューズを履いたままだったのが祟って支稜を登りはじめてから断続的に足がつる。この頃からガスってきた。


(左画像)T峰のすぐ手前 

U峰

U峰上部
U峰頂上

・肩から1峰は遠く感じたがT・U峰の鞍部の登り返し(40m下り100m登る)は見た目より楽だった。
・U峰頂上のすぐ手前に短いがちょっと怖い箇所があった(幅50cm位のトラバース(2 〜3歩))。

(3)U峰からの懸垂下降(30m弱) 

熊の岩(手前)と八ツ峰

懸垂下降支点

・太いピンに直径10mm以上ある鎖がセットされた懸垂支点があり安心。
・通常は30m以上のロープ2本を使用するが(今回は50m2本持参)、下から5m位の所にあるテラスにも懸垂支点があり、これを利用すれば50m1本でも下降可能。

 
(4)懸垂終了点〜剱岳本峰 

・浮石が多い岩稜歩き。U峰までの岩稜歩きよりはなだらかだが、一般道の難コース(破線)位の印象。U峰を越えても本峰まで3〜4の小岩峰があり、ガスの切れ間から次々に現れる岩峰にウンザリ。
→T峰頂上で登山靴に履き替えてから足がつるのは治まったが今度は水が底を尽く(軽量化のため2人で3Lしか持参しなかった)。U峰の懸垂下降後安心して水を一気飲みしたのが痛い。
本峰に着く頃には暑さと水バテで完全にダウン、以後の予定は中止して別山尾根を下降した。
*なお、ルート全体を通じて踏跡は比較的明瞭であるが、道標・表示等(テープも)は剱岳頂上まで一切なかった。


U峰のコルから本峰までは意外に遠い

源次郎尾根U峰とT峰
 
(5)別山尾根の下降

・カニの横ばいはフラフラしていて不安だったのでスリングでバックアップをとって通過。その後もヘロヘロで這うように下った。

(おまけ)私は剣山荘で1.5Lのジュースを一気飲み。漸く普通に歩いてテン場に戻ることが出来た。
水がなくなると行動食も喉を通らなくなる、全く悪循環だ。今回は本当に水の大切さを思い知らされた山行だった。
*源次郎尾根は行動中一切水の補給が出来ないので水は多めに持ちましょう。

 
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