北穂高岳東稜2000年9/29〜10/1
ちょっとバリエーション 
山の手帳 
 稜○」と「陵×」
最近、阿弥陀南稜・北稜、奥穂南稜・北穂東稜、明神岳東稜、一ノ倉沢烏帽子南稜等をネット検索すると、「稜」が「陵」となっている記述をよく見かけます。これらは、一応、急峻な岩稜上にある登攀ルートで、その尾根は角張っているので、「稜」が正しいことは言うまでもありません。
「陵」という誤記は、上掲のようなバリエーション入門・初級ルートに関する記録に集中しており、「屏風岩東壁東稜」等少し難しいルートでは、見かけません。
そもそも、「陵」は、丘陵、天皇陵等、こんもりした丘のような地形に使われるのですが、日常生活で馴染みの深い宅地においては、「陵」の方が「稜」より使用機会が多いようです。このため、宅地ではないのに、例えば、「きたほとうりょう」をワープロソフトで変換したり、ネット検索をしてみると、変換候補として「稜」より「陵」の方が先に出て来てしまい、これが誤字の原因だと思われます。
因みに、山岳地形では、山稜(尾根)、稜線(ピークとピークを繋ぐ尾根)等、「稜」は使いますが、通常「陵」が使用されることはありません。
私は、冒頭に掲げたような初心者ルートでも、いざ行くとなると、結構、緊張するので、検索などで、お墓を連想させる南「陵」などという記述は、何となく不吉で嫌な印象を受けてしまいます。こんなことを書くのは大人げないと思ったのですが、単なる誤字と見過ごせないほど多いので取り上げてみました。
9/30に北穂高岳東稜(日本登山大系ではU )に登ってきました。
ゴジラの鼻から頭を振り返る 【概要】
 北穂高岳東稜は涸沢カールを馬蹄形に取り囲む稜線の右端に位置する顕著な尾根で、北穂高岳北峰から派生し一般ルートのある南稜(南峰から伸びる側稜)と北穂高沢を挟んで対峙しています。上部は通称ゴジラの背(注)と呼ばれるナイフリッジを形成し岩登り入門者向けのバリエーションルートとなっています。

 東稜は雪の北穂高沢を登った時からずっと気にかかっていたルート。実際に登ってみると、一般ルートの岩稜にペンキ表示や鎖がない程度という印象でした。核心部のゴジラの背は西穂〜奥穂の馬の背+鎖無しの長谷川ピーク(大キレット)といった感じでしょうか。アプローチの北穂沢のトラバースは浮石だらけで神経を使いますが、東稜に上がってしまえば岩も安定しており安心してクライ

ミング気分を味わうことができました。
 なお、参考文献により「東稜のコル」が指している鞍部が異なっていました。東稜ルートには「取付のコル」と「ゴジラの背(又は頭)と北穂北峰の間のコル」の2つの鞍部がありますが、文献3では前者が「東稜のコル」、また、文献4及び5では後者をそう呼んでいます。
そこで、後述の山行メモでは、取付のコルを「東稜の(下の)コル」、ゴジラの背(又は頭)と北穂北峰の間のコルを「東稜の(上の)コル」と記述することにします。

(注)核心部(上部にある約100mのナイフリッジ)の呼称については、全体を「ゴジラの背(又は馬の背)」とするものの他、いくつかの部分に分けて「ゴジラの背」、「ゴジラの頭」、及び「ゴジラの鼻」と呼ぶ場合があります(文献3)。核心部全体=「ゴジラの背」が一般的なようですが、核心部を分けて表記する方が場所の特定がしやすいので後者を採用することにします。

【山行日】2000年9月29日(金)〜10月1日(日)
【山域・山名】北アルプス南部・穂高連峰・北穂高岳
【参考文献】
1.2万5千図「穂高岳」
2.昭文社エアリアマップ「上高地・槍・穂高」
3.アルペンガイド「上高地・槍・穂高」2000年版(山と渓谷社)
4.穂高連峰を歩く1994年版(山と渓谷社)
5.日本登山大系7槍ヶ岳・穂高岳(白水社)
【メンバー】私+妻
【日程,行程及び時間】(前夜発2泊3日、アプローチ:車)
◇9/29(金):曇り
 上高地バスターミナル7:15−明神7:58−徳沢8:40/45−横尾 9:32/48−本谷橋10:45/47−涸沢テン場12:10着(幕営)
◇9/30(土):晴れのち雨(稜線は霙)
 涸沢テン場7:00−南稜道との分岐7:42/48−ゴルジュ上8:08−東稜取付8:26−右俣ルンゼ源頭の段8:37/45−最低コル8:51/ 9:10(登攀具着ける)−ゴジラの頭手前の段9:25/35(ロープを出す)−1P終了点(ゴジラの後頭部)9:48−2P終了点(ゴジラの鼻)10:15−東稜のコル10:25/40(登攀具外す)−北穂小屋11:05/12:05(昼食)−北穂北峰12:07/11−(南稜)−涸沢テン場13:23(幕営)
◇10/1(日):晴れ時々曇り
 涸沢テン場10:48−本谷橋11:52/12:03−横尾12:52/13:18(昼食)−徳沢14:14/23−明神15:05−上高地バスターミナル15:45
【山行メモ】
9/30:晴れのち雨(稜線上は霙)

・4時半起床。昨夜は興奮して眠れないのではと案じていましたが、山で知り合った友人と再会し飲んでしまったせいか、かの寝心地の悪い涸沢のテン場でもぐっすり眠れました。朝は良い天気で涸沢カールを朱に染める素晴らしい朝焼けを見ることが出来ました。これで紅葉していれば最高なんですが(今年は紅葉が遅れています)・・・・。準備に手間取っているうちに出発は結局7時になってしまいました。

《東稜の取付》
・東稜へは、一般道が北穂沢から離れて(左に入る矢印あり)、さらに南稜方向へ折れる所から一般道と分かれて右側に斜上する踏み跡に入ります。
@ゴルジュ A東稜の(下の)コル Bゴジラの頭 
Cゴジラの鼻 D東稜の(上の)コル
・ゴルジュの上に出て、ほんのわずか残った雪渓の下を左岸側へトラバースします。私たちは途中で踏み跡
東稜中間部を登る を見失い、登りすぎてトラバースしたため浮石だらけで神経を使いました。
・東稜から2本の顕著な枝沢が入り、踏み跡のある下の方の沢に向かいます。この枝沢は途中から二股になっており、向かって右側のルンゼから東稜へ取り付きました(明確な踏み跡がありこちらの方が容易そう)。

・ルンゼを登りきった尾根の段状地は素晴らしい展望台。北穂とは少し違った角度から見る南岳や槍、美しいスカイラインを描く前穂北尾根が印象的でした。・正面の小ピークを右から巻いた鞍部が「東稜の(下の)コル」、ここでゴジラの背〜頭部の巻き道(北穂の池への踏み跡)が分岐します。・コルで登攀具を着けていると単独の人がやってきました。巻き道を行くと言っていましたがクライミングシューズに履き替えている所をみるとどうもゴジラの背に行くようです。


《ゴジラの背〜東稜のコル》
・正面の小ピークを登ります。この辺りは痩せ尾根というより大岩の積み重なったような岩稜歩き、甲斐駒の六方石からの直登ルート(冬道)のような感じでした。一箇所北穂沢側に出て幅40cmほどの岩棚をトラバースする所がありますがごく短いもので特に問題なし。

・もうひとつ小ピークを越え、段になった3番目のピークに立ちます。この先から顕著なナイフリッジとなり、いよいよ核心部、ちょっと緊張します。
写真を撮っていると前述した単独の人が追いついてきたので先に行ってもらいます(後述のピナクルもあっという間に通過してしまいました)。

・うまい人を見ていると簡単そうでロープ不要という気になりますが、超初心者の私たちはやはり確保した方が無難、せっかく持ってきたのでロープワークの練習をすることにしました。
東稜中間部より上部岩稜
ゴジラの背〜頭
ゴジラの背からゴジラの頭へ至るナイフリッジ。Knがいるところが後頭部
・核心部(ゴジラの背〜ゴジラの頭〜ゴジラの鼻)は記憶によると
(1)小ピークから幅50〜60cmのナイフリッジを渡り小ギャップへ下ります(ゴジラの背〜首の通過)。

(2)小ギャップの先には3m程のほぼ垂直なピナクルがあり、ここから「ゴジラの頭部」。ピナクル(後頭部)はその基部(確保支点あり)から一段上がった後、先端を右から巻いてリッジに出ます。

(3)リッジに上がると(「ゴジラの頭」)右側(横尾本谷側)に幅60cm程のトレイルがあります。これを少し歩くと、再びナイフリッジ状となり今度は北穂沢側に出て渡ります。

(4)渡りきった先がまた小ギャップとなっておりこれを慎重に一段下ります(確保支点あり)。
(5)少し幅が広くなったリッジを僅かに登り返すとナイフリッジ先端となり(「ゴジラの鼻」)、この鼻から「東稜の(上の)コル」へ下りると登攀終了。
ゴジラの後頭部よりゴジラの頭〜鼻
ゴジラの頭〜ゴジラの鼻。Knがいるところがゴジラの鼻
・(1)(3)(4)の3ピッチでロープ(30m)を使用しました。(1)(3)はスタカット(隔時登攀)、セルフビレーの支点は岩でランニングビレー(中間支点)は残置ピトンを利用しました。
・ちょっと緊張したのは(1)のピナクルの登り。ピナクル下の北穂沢側は50m位(?)スパっと切れ落ちており、下を見るとすごく高度感があります。ホールド・スタンスは十分にあり、3箇所にピトンが打ってあってランニングビレーもとれます。
・(3)は(1)ほど高度感がないけれど相対的にスタンスがやや細かい箇所がありました。途中に残置ピトンがあります。
・(4)は、一応懸垂下降しましたが(30mロープ1本でぎりぎり届く)、岩が階段状に積み重なったような岩場であまり懸垂下降のメリットを感じませんでした(スタンスが遠い所があるもののクライムダウンしても問題なさそう)。
ゴジラの鼻〜東稜の(上の)コルの懸垂下降 そう言えばガイドブックにも「懸垂下降の”要領”で」と書いてありましたっけ。
・下降点の岩に残置ピトン・スリングがありましたが、岩に直接かかっている新しい9mmのロープスリングを利用しました。

・なお、クライミングもロープワークも未熟な我々は核心部の通過に1時間を要していますが、先行者はここを20分程で通過しています。

《東稜のコル〜北穂高岳》
・登攀用具を外し記念写真を撮って出発します。「東稜の(上の)コル」から北穂高岳までは始めはガレ場、上部は段差のある結構急な岩場で予想していたより辛い登りでした。

・北穂小屋のテラス直下のバンドをトラバースし大キレットからの縦走路と合流すると小屋はすぐでした。
・テラスでコーヒーを飲んでいると何時の間にか空が暗くなり白いものが落ちてきます。そう言えば東稜にも新雪が残っている所があったような・・・・・・・・・・・。
・帰りは東稜の巻き道経由で北穂の池に行くつもりでしたが天気が回復しそうにないので中止、お陰で北穂小屋でゆっくりと昼食を摂る事が出来ました。クラシックを聴きながら牛丼を食べるというのもなかなかおつなものです。
・小降りになった頃を見計らって南稜を下ります。久々の南稜の下りでしたが、登りと違って歩きやすく1時間少々で下りてしまいました。早く下ったお陰で我々はあまり濡れずに済みましたが、南稜経由で涸沢岳を回ってきた友人はずぶ濡れでした。
残雪期の北穂東稜(2011年GW)の記録
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