長次郎谷左俣より剱岳(真砂沢幕営2泊3日)
2000年8月11日〜13日

剱岳東面(2010年6月蓮華岳より)
@長次郎ノ頭 A池ノ谷の頭 B八ツ峰の頭

【はじめに(20116月追記)
 長次郎谷(ちょうじろうたん)は剱岳東面を代表する2大岩稜の源次郎尾根と八ツ峰に挟まれた沢(*)。年によって程度の差はありますが、夏〜秋でも残雪のある雪渓ルートです(バリエーション入門ルート・要ピッケル・アイゼン、秋はロープも必要な場合あり)。中間部にある熊ノ岩で左俣右俣に二分され、一般的には剱岳本峰に近く、相対的に傾斜の緩い左俣を登ります。最近は映画「剱岳・点の記」の舞台となったルートということで俄かにクローズアップされているようですが、私たちが登った2000年夏は訪れる人も少なく、渋滞する別山尾根からは想像できないほど静かな山歩きができました。

 雪渓の状態で難易度は大きく変わるものの、梅雨明け〜お盆前なら比較的安定していてピッケル・アイゼンを使う雪山・雪渓の経験がある人なら比較的容易に歩けるルートだと記憶しています。また、長次郎谷と北方稜線コースは難所が少なく、剱岳東面の全体像を把握するのにとてもよいルート。同じバリエーション入門ルートでも少し難しい源次郎尾根や八ツ峰の主稜縦走(いずれもクライミング技術経験が必要)を目指す人には、いろいろな面で役に立つので(雪渓歩き・ルートファインディング等)、先にこれらのルートを歩いておくとよいと思いました。
(*)東日本の「沢」に相当する地形は、西日本で「谷」と呼ばれることが多く、さらに、富山県では、この「谷」を「たん」「だん」と読むようです。
また、立山・剱岳付近は「谷」が主流ですが、稀に「沢」が使われることがあります(ex真砂沢)。剱岳より西日本側では、ほぼ100%「谷」となっており、綺麗に使い分けられているという記述を見たことがあります。

【山行日】2000年8月11日(金)〜13日(日)
【山域・山名】
北アルプス北西部・立山連峰・ 剱岳(2998m)
【参考文献】
2万5千図「剱岳」「十字峡」「黒部湖」
昭文社エアリアマップ「剱・立山」
アルペンガイド「立山・剣・白馬」94年及び2000年版(山と渓谷社)
【メンバー】夫婦2人

【日程,コースタイム等】(前日小渕沢発(阿弥陀南稜)2泊3日、扇沢まで車利用)
8/11():晴れ夕方一時雨(強く)
扇沢730=(始発トロリーバス)=黒部ダム駅750/55−内蔵助谷出合8:55/900(ルートミス50分ロス+休憩30)−内蔵助平1209/1300(大休止)−ハシゴ谷乗越1421/25−真砂沢幕営地1543

8/12()晴れ夕方一時小雨
真砂沢幕営地610−長次郎谷出合635/50(アイゼン着用等)−熊ノ岩直下のインゼル813/51(大休止,写真)−長次郎のコル951/1008(アイゼン外す,写真)−剱岳頂上1024/40−前剱1134/45−剣山荘1239/58−真砂沢幕営地1410

8/13():晴れのち曇り
真砂沢幕営地735(写真30)−ハシゴ谷乗越916−内蔵助平1007/18−内蔵助谷出合1131/36−黒部ダム1243

【山行記録
20008月にアップした山行メモです(一部訂正)。
 2度目の剱岳、早月尾根と長次郎谷(左俣)どちらにするか迷いましたが、暑いのは苦手なので2000m以上の標高差のある早月尾根よりやはり涼しそうな長次郎谷(雪渓)の方に軍配があがりました。 アプローチは黒四ダム〜内蔵助平〜真砂沢(幕営)、2日目ここをベースに長次郎谷〜剱岳〜別山尾根〜剣沢と巡り、3日目に往路を下山する日程です。

8/11()
《黒四ダム〜真砂沢》
 トロリーバスは満員だったのに,地下通路を通って旧日電歩道方面の出口へ向かったのはヘルメットを付けた男女2人と釣りに行くと言う3人そして我々の7人だけでした。ここ(駅の標高1450)から九十九折の急な作業道を黒部川に向かって200m近い急下降、帰りの事を考えるとうんざりしました(実際復路で一番辛かったのはこの登り)。

黒四ダムの直下に出て黒部川を左岸へ渡ります。はじめは樹林の中ですが、しばらくすると岸壁のへつり道になります。桟道や丸木梯子を慎重に通過するとちょうど1時間で内蔵助谷出合に到着。この辺りまでは二人とも順調でした。

 黒部川を右に分け内蔵助谷沿いの登山道を登ります。出合から丸山東壁の横を通過するあたりは巨大なスノーブロック(1450m付近)が道を塞いでいたり、段差のある急斜面を固定ロープ,,鉄梯子等を使って通過(1550m付近)するところがありました。
このスノーブロックは上下いずれも通過できますが、下を通るときは頭上に注意が必要でした(復路で直径15cm程の木の枝が音もなく降って来て肝を冷やした)。
また、この辺りには丸山側からの枝沢(涸れている)が登山道と交差しており踏跡もあります。たいていは入り口に×印がありますがない所もあり、ぼーっとしていてそのひとつに入り込んでしまいました。迷い込んだ踏跡は小規模な雪渓はあるし,一般道にしては傾斜が急すぎるので変だと思ったのですけど・・・・・。

 正規ルートに戻る頃から妻が体調不良で大幅にペースダウン、いつもと様子が違うので一時は撤退も覚悟しましたが、こまめに水と休憩をとり、内蔵助平では1時間ほど休ませたのが良かったのか意外に早く回復、真砂沢まで何とかたどり着くことが出来ました。
なお、水は、内蔵助谷の鉄橋を渡った先の枝沢から得ることが出来ました。
内蔵助平〜ハシゴ谷乗越は大部分が段差のあるゴーロ歩きで特に復路(下り)は辛かったです。また、ハシゴ谷乗越〜真砂沢は上部に長い丸木梯子,ロープがつけられたザレ場,ガレ場があり思ったより時間がかかりました。
剣沢は雪渓を対岸へ渡って左岸沿いの登山道を歩くのですが,上り口を示すペイントがわかりにくかったです。

《真砂沢のテン場》
 真砂沢のテン場は8/11()は8張でしたが8/12()は20張とほとんど満杯状態、また我々以外は岩登りパーティーばかりでした。トイレの前にある水場は「生水飲用不可」の表示がありました。

8/12()
《長次郎谷》

 ↑長次郎谷出合(手前が剣沢、前方が長次郎谷)
 
  長次郎谷下部→
                  
 長次郎谷は、剱岳のバリエーションルートの中では最も簡単かつポピュラーなルートということなのでこの時期ならもっと人が多いだろうと思っていましたが、登っているのは八ツ峰6峰目当ての岩登りパーティーばかり,(10パーティー以上、熊ノ岩直下にはテント2張)このコースより本峰に登る人は見かけません。涼しい上に、左に源次郎尾根,右に八ツ峰とロケーションに恵まれ単調になりがちな雪渓歩きも全く苦になりませんでした。
,雪が多かったせいか、8月というのに2,3箇所シュルントはあるものの容易に回避でき、長次郎谷出合から稜線(長次郎のコル)までずっと雪の上を歩くことが出来ました。
 
長次郎谷は、熊ノ岩手前の二俣が中間地点(いずれも標高差で約500m)、下部は剣沢雪渓より少し急なくらいですが、上部はずっと35度以上だそうです。 

熊ノ岩直下の台地で大休止。ピトンを打つ音が谷に鳴り響き,ここからは6峰Cフェース,Dフェースを登攀するクライマーが輝いて見えました(双眼鏡が役に立ちました)。

熊ノ岩からは傾斜の緩い左俣を登りますが、熊ノ岩直下の入口にはシュルントが開いていました(ここは早い時期からシュルントができる)。そこで、これを回避するため右俣を少し登り、熊ノ岩の台地に上がってテン場(原則幕営禁止)を横断後、左俣に入りました。

長次郎谷左俣ルートイメージ(2010.6蓮華岳より)
←熊ノ岩(二俣)付近↑
長次郎谷左俣へは、二俣からではなく、右俣から一旦熊ノ岩に上がり、これを経由して左俣に入った。
また、熊ノ岩より上部の中間付近(高度計2700m)には右岸(左)から伸びるシュルントがあり雪渓の幅が狭くなっていました。ここは最も斜度がきつく(40度くらい)ちょっと緊張しました。左俣中間部で、ストック1本で本峰から下りて来る人に会いました。別山尾根の混雑を避けてとのことで、ベテランのようでしたが、この急斜面の下降に少々てこずっている様子でした。一般的にはピッケル・アイゼンは必携だと思います。
長次郎谷左俣(下部)
下のほうはそれまでと大差ないが、中間部にシュルントが開いており、それより上部は急だった。
 長次郎のコルでアイゼンを外し源次郎尾根2峰をバックに記念写真を撮りました。本峰までの岩稜は北方稜線の一部にあたるということで注意して歩きましたが、長次郎の頭より本峰側は特に問題になるような所はありませんでした。ペンキマークはないものの、踏跡は比較的明瞭,また残雪期のものと思われる赤旗も残っていました。

《別山尾根・剣沢雪渓》
 別山尾根は「カニの横ばい」「前剣の登降」など数箇所で順番待ちがありましたが下山が正午頃と遅かったので混み具合はそれほどでもありませんでした。
←長次郎のコル:背後は北方稜線(本峰側)
別山平(剣沢テン場)から剣沢雪渓を下り真砂沢へ戻ります。剣沢はシュルントは全く開いておらず、大分雪渓歩きに慣れたのでノーアイゼンで下りました。
《おまけ》
 長次郎谷出合でアイゼンを履いていると人馴れしたオコジョが足元までやってきて可愛かったです。ただ、シャッター音には敏感ですぐ岩陰に隠れてしまいます。マニュアルのカメラはこういう場面には不向きですね。
立山剱方面の山行リスト  (関連)長次郎谷右俣 
 
 ちょっとバリエーション
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