夏の中山尾根八ヶ岳横岳西壁
2011年8月28日(美濃戸口から日帰り)
その1
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ちょっとバリエーション GWの中山尾根
 山の手帳
中山尾根と日ノ岳(地蔵尾根より)
     大同心       小同心                  中    山    尾     根            
下部岩壁             上部岩壁    ピナクルのある小岩峰     日ノ岳
【はじめに】
 夏山行第三弾は中山尾根へ行きました。
 今年の夏は大気の状態が不安定で、山行予定日はことごとく雨となり、中止や計画変更を余儀なくされました。近頃は秋霖の兆しも見え始め、長雨の季節になる前に何とか一つくらいはバリエーションに行けないものかと検討したところ、分相応で、涼しく、アプローチを含め日帰り可能となると、やはり八ヶ岳ということになりました。

 中山尾根は、屏風のように連なる横岳西壁の南端にある長大な尾根、日ノ岳から派生し、柳川を南沢と北沢に分けています。大半は樹林に覆われた茫洋とした尾根ですが、上部は(稜線まで標高差約250m)、上下二つの岩壁を擁する急峻なリッジで、日ノ岳直下にあるトサカピークが目印となって(画像の)地蔵尾根や行者小屋からでも特定することができます。
 上部のリッジは、通常冬季に登られる中級者向けのルートではありますが、八ヶ岳にしては岩も堅く無雪期も登攀可能とのこと。昨年の経験から(小同心クラック)、フラットソールの使えるこの時期なら私たち初心者でも登れそうなので挑戦してみることにしました。

【山行記録】

8/28(日)曇りのち昼過ぎから晴れ

1.アプローチ
美濃戸口4:50--美濃戸5:28--(柳川南沢道)--行者小屋7:17/34(休憩・準備)--中山乗越7:43--下部岩壁取付8:31
(0)美濃戸口まで
8/27(土)
 今週は土曜は良かったが日曜は予報では今ひとつ、月初のオベリスク同様、昼過ぎから雨とのこと。来週は台風12号の影響が避けられそうになく、地上天気図を見る限り明日は大崩はないと判断し強行することにした。
 20時半過ぎに自宅を出発、中途半端な時間のせいか、一般道も高速も空いていた。須玉を過ぎた頃から雨が降り始めるもこれは予報どおり。小淵沢ICの近くのコンビニで朝食を調達し、美濃戸口へ向かう。駐車場は意外に車が多く1/3位は埋まっていた。少し離れたところに駐車し仮眠。標高があるせいか(1500m)、先日のように暑くなく(青木鉱泉)、快適に眠れた(シュラフカバーを上に掛けただけ)。
(1)行者小屋まで

8/28(日)曇りのち昼過ぎから晴れ

 4時起床。外は霧雨、朝食を摂りながら待ってみるも、止む気配はなし。時折美濃戸へ向かう車が林道ゲートを通過していく。妻は全く気が乗らない様子、とはいえ、ここまで来て引き返すのももったいないので、最悪、偵察山行のつもりで、取付までは行ってみることにした。

 日帰りだから登攀具があっても重量は知れているのだが(私15kg妻10kg)、雨具を着て歩くと蒸し暑く不快、次々と追い越していく車が恨めしく感じた。
 この天気でも赤岳山荘をはじめ美濃戸の駐車場はほぼ満杯。もっとも、空模様が気になって日和見を決め込んでいる人が多く、車が多い割りに歩く人はまだ少なかった。
 柳川南沢コースは春にも歩いているが、道の両側にトラロープが張り巡らされていたり、一跨ぎで渡れた渡渉箇所に丸太が必要なほど水流があったりと、雪のある季節とはずいぶん様変わりしていた。
 南沢に水がなくなり、行者小屋が近づいたことが分かる。いつの間に雨も上がって、ぼんやりと横岳西壁が覗いていた。
 行者小屋は朝食を摂ったり、これから赤岳に登る人で賑わっていた。青空も覗き始め一安心。ここから中山乗越(中山尾根の取付)までは10分ほど、ちょうどベンチも空いたので、早いとは思ったがここから登攀具(ヘルメット・ハーネス等)をつけて歩くことにした。
(2)下部岩壁取付へ
中山乗越〜下部岩壁
 小屋の前で地蔵尾根登山道と別れ、赤岳鉱泉方面の道を進む。赤岳登頂の人とのすれ違いが頻繁にあり、漸く人が途切れたと思った頃には中山乗越に着いてしまった。
 ここは、中山尾根(日ノ岳〜美濃戸)の上部にある鞍部で、道標には南(行者小屋)、北(赤岳鉱泉)、西(中山展望台)の三方向の表示がある。
 登攀対象となる尾根最上部の取付(下部岩壁)へは、樹林に覆われた表示のない東方の踏跡を登る。 
下部岩壁手前で視界が開け大同心・小同心が見えた  無雪期はあまり人が入らないのか小同心クラックのアプローチなどより踏跡は柔らかく不明瞭。もっとも、見通しは良いので(間伐してあるようだ)ルート自体は分かりやすかった。途中ビバークによさそうな広い緩傾斜帯があるも位置的にあまり利用価値はなさそう。その先は30度くらいの急登がしばらく続き一汗かく。
 ハイマツ・シャクナゲ等潅木が目立つようになると、尾根が痩せてきて左手(北)の展望が良いところに出た。足下は切れ落ちており(日ノ岳ルンゼ)、立ち木を掴んでその縁に立ってみると、幾筋もの急峻なリッジ(日ノ岳稜・石尊稜・無名峰南稜等)がずらりと並び、その先には大同心と小同心が覗いていた。
 展望地を過ぎるとすぐに潅木帯を抜け、赤土のナイフリッジの先に、左右に双子のようなピラミダルなスラブ壁が立ちはだかっていた(下部岩壁)。

2.中山尾根登攀

*画像にカーソルを合わせると登攀ラインイメージが表示されます
1.下部岩壁   2.上部岩壁   3.ピナクルのある小岩峰   4.トサカピーク   5.終了点(日ノ岳)
赤線;今回登ったライン  黄色線;参考文献1に記述のある容易なライン  緑線;横岳〜赤岳縦走路(一般道)

下部岩壁取付8:31/9:03(偵察・準備)--左スラブ壁--草付リッジ--上部岩壁取付10:22/33(偵察・準備)--上部岩壁--岩・草付のミックス--短い岩稜--ピナクルのある小岩峰--トサカピーク基部11:50/57(偵察・準備)--浅い崖状ルンゼ--日ノ岳12:19

(1)下部岩壁(左スラブ)〜草付リッジ

左スラブ下部;下部岩壁取付9:03--(バルジ状(W?)〜左上する凹角(V+)・25m)--1P目終了点(左スラブ上部の取付)9:25(F)/33(L)

<下部岩壁> 1.岩土混じりのナイフリッジ 2.左スラブ 3.右スラブ 4.左スラブ最上部の凹角
 ぬかるんで滑りそうなナイフリッジを立ち木を手がかりに登ると、左のスラブ壁(以下左スラブと呼ぶ)直下に出た。
 ここは左右両側が崖状のルンゼとなっており、狭いテラスだった。正面は左スラブ壁のほぼ真ん中で、膨らんだ岩(バルジ状)が立ち上がっており、その取付にはペツルのボルトが2本打ってある。ルートガイドのコピーを出してみると、『(取付から)右に下って凹角に入り、これを左上する(35mV+)』とある。この凹角に該当するものといえば、すぐ右の岩溝か、左右両スラブの間のルンゼのいずれかで、この取付からスタートするならば、前者であろうと思われた。ただ、前者にしても、取付いてしまえば簡単そうではあるが、その落ち口(入口)へ行くには右の崖状ルンゼへ濡れた泥壁を少し下らなければならず、躊躇された。再度正面のバルジ岩を見上げると、下部はやや立っているものの、凸凹した岩だし2〜3m間隔で2本のピンがあって見た目は容易そう。2本目以降は下からではよく分からないが(以降の中間支点)、当該バルジ岩の右にある凹角に入れば何とかなると思われた。
 ザックを下ろし水・行動食を補給、登攀準備に取り掛かる。 
左スラブ・ルートイメージ
 1P目は私がリード。階段状の登りかと思ったら下部はパーミング系の丸いホールドが多く、岩が濡れていることもあって見た目より難しく感じた。
左スラブ1P目 特に2本目のクリップは手足のホールドの位置関係が少し悪くこのピッチの核心。その先はリッジ上にピンはなく、右の浅い凹角に入ると再びペツルのボルトが現れた。

 凹角は階段状で全く問題なかったが、中間支点のナットがことごとく緩んでいるし(締めながら登った)、上のほうは土混じりの岩場で滑りそう、簡単だが気は抜けない印象だった。

 凹角を抜けたところは、登ってきた岩場の左の側壁にあるバンド上で終了点が2箇所作ってあった。ロープは半分(25m)残っていたが、先に進むと(2通りルートがある。後述)、流れが悪くなりそうなのでピッチを切ることにする。 

左スラブ上部草付リッジ;スラブ壁上部取付9:33(L)--(5m凹角(W+)〜草付リッジ;45m)--草付リッジ上の潅木10:05/15--(歩き・コンテ)--上部岩壁取付10:22/33

 2P目は妻がリード(以降つるべ)。
2P目出だしの凹角  1P目終了点から稜へ上がるには、@バンドをそのまま進み、草付斜面を登って左スラブ最上部を巻く(巻道)、A1P目終了点の頭上の凹角を直登し稜に出る(左スラブ最上部直登)、の2通りがあった。
ルートガイドでは直登については『頭上の難しい凹角を登る』とあったが、濡れた草付登りを嫌った妻は、Aの直登を選択した。
 階段状を一段上がると問題の凹角となる。1本目のピンはそこからなら届く位置にあるが(左壁)、取付からは見難く、手袋・アイゼンで登るには(冬登る場合),少々ホールドが細かいところがあった(クラックがありフレンズ使用可)。核心は、そのすぐ後の左壁にあるカチホールド(前爪の深い穴が開いていてハンドホールドにするときは指が2本ぴたっと収まる)に立って凹角を抜けるところ。フラットソールなら然程問題とならないものの、冬は思い切りが必要そうに感じた。
 
 取付から5〜6m登ると、歩きとなりそのまま草付リッジに出た。妻は草付リッジの途中でピッチ切っており(45m)、その先は歩きではあるものの、急なのでロープを縮めてコンテで登った。少し前からガスっており、この頃から時折雨も落ちてくる。

 草付の中の踏跡を少し登ると木が疎らになり、前方右手にぼんやりと岩場が見えてくる。どうやら上部岩壁のよう、これ以上天気が崩れなければよいが・・・。
その2へ続く
ちょっとバリエーション GWの中山尾根
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